若手研修を中心とする会社を経営していた頃、私、森田英一は社員を集めるときに、あえて違うタイプ、違う年代、違う経歴の人を選んでいました。社員からは、その状態を「人間動物園」と呼ぶ人もいました(笑)。同じような人を集めてマネジメントした方が、圧倒的に楽です。経営の効率も、決して良くはありません。それでも、違う人が混ざれば何かが起きるはずだと思っていました。
人を選ぶ立場になると、放っておけば自分に似た人、扱いやすい人を選びたくなります。次世代リーダーの選抜でも、同じことが起きます。部長の推薦で候補を集めると、年次と部門のバランスがとれた、見慣れた顔ぶれになりがちです。そして全員を同じ研修に通す。公平に見えますが、本当に任せたい人に、早く大きな経験を渡すことはできません。
「横並び」から「抜擢」に切り替えるとき、よりどころになるのが人材アセスメントです。この記事では、次の問いに順に答えます。
次世代リーダーを選ぶ前に、何を決めておくべきか
人材アセスメントとは何か。何を、どう見るのか
選抜の基準をどう作り、評価する人の目をどうそろえるか
選んだ後、そして選ばれなかった人に、何をするか
海外拠点で現地社員を選ぶとき、何に気をつけるか
1. 選抜の前に決める3つのこと
「誰を選ぶか」から話し始めると、たいてい議論が人の好き嫌いに流れます。先に次の3つを決めておくと、選抜がぶれません。
決めること 問い 決めていないと起きること 何のために選ぶか 5年後、10年後に、どのポジションを誰に任せたいのか 「優秀そうな人」の集まりになり、出口がない 何で選ぶか そのポジションで成果を出す人は、どんな行動をとるのか 声の大きい人、上司に近い人が選ばれる 選んだ後に何を渡すか どの仕事を任せ、誰が伴走し、いつ振り返るのか 研修を受けて終わり。期待だけ高まり、離職につながる
3つのうち、いちばん抜けやすいのが「選んだ後」です。選抜の仕組みづくりに力を使い切り、任せる仕事を用意しないまま、候補者に「あなたは選ばれた」と伝えてしまう。この順番を逆にするだけで、選抜の質は大きく変わります。
2. 人材アセスメントとは
人材アセスメントとは、演習・心理検査・面接などを通して、人の行動や考え方を客観的に見て、昇進・配置・抜擢・育成に役立てる方法です。
ふだんの職場の評判は、上司との相性や、配属された部署の運に左右されます。アセスメントでは、全員を同じ条件の場面に置き、そこでの行動を、訓練を受けた観察者(アセッサー)が見る 。ここが大きな違いです。
よく使われる演習には、次のようなものがあります。
演習 中身 見えること 書類処理演習(インバスケット) 限られた時間で、たまった案件に優先順位をつけて処理する 判断の速さと質、何を後回しにするか グループ討議 候補者どうしで、一つの課題に結論を出す 周りの巻き込み方、意見が割れたときの動き 面談の演習(ロールプレイ) 部下役や顧客役と面談し、問題を解決する 聞く力、伝える力、相手を動かす力 分析・発表 資料を読み解き、課題と打ち手を発表する 問題の構造をつかむ力、構想する力
「生まれより、行動で選ぶ」ために生まれた仕組み
人材アセスメントの起源は、第一次世界大戦後のドイツ軍の将校選抜にあるとされます。それまで将校は、ほぼ貴族の出身者に限られていました。生まれではなく、演習の場での行動でリーダーを見ようとしたのが始まりだといわれます。
その考え方は第二次世界大戦中にアメリカなどの軍に取り入れられ、1956年に米AT&Tが管理職候補の長期調査に使ったことで、企業に広がったとされます。日本には1970年代に入り、管理職の登用や育成に使われてきました。
「生まれや所属ではなく、行動で選ぶ」。この出発点は、国籍や年次に関係なく次世代リーダーを選びたい今の日本企業に、そのまま当てはまります。
本格的なアセスメントの前に、まずは候補者の傾向を手軽につかみたい場合は、簡易型のアセスメント「bMRC-20」も使えます。記事の最後でご紹介します。
3. なぜ今、「横並び」では足りないのか
日本企業の多くは、新卒一括採用・終身雇用・年功序列を前提に人を育ててきました。同期を同じように育て、時間をかけて差をつける。長く勤めることへの見返りとして、昇進の機会を順番に配る仕組みです。
この仕組みが悪いわけではありません。ただ、次の変化で無理が出ています。
人の取り合い :働く人が減り、若手は「早く任せてもらえるか」で会社を選ぶ。順番待ちの間に、力のある人から辞めていく
海外の比重 :売上や社員の多くを海外が占める会社では、日本人だけで経営層を固めると人が足りない
待てない経営課題 :事業の入れ替えが速く、30代で事業を任せられる人を、計画して用意する必要がある
外に説明する場面も増えました。2023年1月の内閣府令改正で、2023年3月期以降の有価証券報告書に、人材育成の方針などを書くことが求められるようになりました(金融庁 )。上場企業向けのコーポレートガバナンス・コード(東京証券取引所) も、取締役会がCEOなどの後継者計画にかかわり、候補者の育成を監督することを求めています(補充原則4-1③)。
「誰を、どんな基準で選び、どう育てているのか」。社内だけでなく、社外からも問われる時代になっています。
4. 選抜の基準をつくる ― 3つのスキルと「似た人を選ぶ」罠
層ごとに、求める力の比重を変える
基準づくりの枠組みとして長く使われているのが、ロバート・L・カッツが1955年にハーバード・ビジネス・レビューの論文で示した、管理者に必要な3つのスキルです。
スキル 中身 比重が大きい層 テクニカル・スキル(業務の専門性) 仕事や技術の知識と熟練。分析し、道具を使いこなす力 現場のリーダー、技術職 ヒューマン・スキル(対人関係の力) 部下・同僚・上司と協力し、人の力を引き出して成果につなげる力 すべての層 コンセプチュアル・スキル(考えを形にする力) 問題の構造をつかみ、戦略やビジョンを描く力 経営層、事業責任者
課長候補と役員候補を、同じ物差しで見ないこと。上の層ほど、目の前の問題を解く力より、問題そのものを描き直す力が問われます。対象の層ごとに、基準と比重を分けて書き出します。
基準は「行動」の言葉で書く
「リーダーシップがある」「主体性がある」では、見る人によって解釈が変わります。「意見が割れたとき、両方の言い分を整理してから結論を出す」のように、場面と行動で書きます。行動の言葉で書いておくと、国籍や言語が違う人どうしでも同じものを見られます。
似た人を選ぶ罠を、仕組みで防ぐ
冒頭に書いたとおり、人は放っておくと自分に似た人を高く評価しがちです。選ぶ側が同じ部門、同じ年代、同じ国籍の人ばかりだと、候補者も似た顔ぶれになります。防ぐ方法は単純です。
評価する人に、違う部門・違う立場の人を入れる
候補を推薦だけで集めず、本人が手を挙げる道も用意する
「自分と違うやり方で成果を出している人」を、あえて候補に入れて比べてみる
違う人を選ぶのは、手間がかかります。それでも、変化の速い時代に会社を引っ張るのは、今の経営陣の複製ではありません。
5. 評価する人の目をそろえる ― 目合わせと目利き
基準を決めても、見る人によって判断がばらつけば、選抜の信頼は崩れます。
目合わせ :評価する人どうしで同じ場面(演習の録画など)を見て、点をつけ、理由をすり合わせる
目利き :行動の一場面から、その人の力と伸びしろを見抜く。評価する人自身が訓練を受ける
評価がばらつくと、抜擢された人もされなかった人も納得しません。とくに抜擢された人は、周りの冷ややかな目にさらされます。「なぜこの人なのか」を基準に沿って説明できることが、本人を守ることにもなります。
アセスメントの基準を、ふだんの人事評価の基準とそろえておくことも欠かせません。アセスメントで見る力と、日々の評価で求める力が別物だと、社員は何を伸ばせばよいのか分からなくなります。
6. 選んだ後で、選抜の価値が決まる
人材アセスメントは、評価すること自体が目的ではありません。選んだ人が次のポジションで力を発揮し、成果を出して、はじめて意味があります。
選んだ人に渡すもの
背伸びの仕事 :小さな事業の責任者、海外拠点の立ち上げ、全社プロジェクトなど、今の力より一段上の経験
伴走する人 :上司とは別に、相談できる経営層や先輩を付ける
振り返りの場 :アセスメントで見えた伸びしろを育成計画に書き、半年ごとに本人と上司で振り返る
抜擢された人が挑戦の場で成果を出すと、周りには「この会社では、力があれば任される」という合図になります。
選ばれなかった人に伝えること
見落とされがちですが、選抜の後に大事なのは、外れた人への伝え方です。基準を公開し、「どの力を伸ばせば、次の機会があるのか」を具体的に伝えます。選抜を一度きりにせず、数年ごとに見直す仕組みにしておけば、外れたことが次の目標になります。
7. 海外拠点で現地人材を選ぶとき
次世代リーダーの選抜は、日本本社だけの話ではありません。当社のタイ拠点でも、現地社員に権限を渡していくために、優秀な現地スタッフをどう選び、どう育てるかという相談が続いてきました。
海外拠点には、本社とは違う難しさがあります。
駐在員が、マネジメントや人事の経験を十分に持たないまま赴任していることが多い 。誰を選ぶかが、駐在員の印象に左右されやすい
日本人だけで決める人事に、現地社員は見切りをつけやすい 。基準が見えないと、力のある人ほど先に辞める
そこで、選抜の前に次のことを決めておきます。
決めること 中身 現地マネジャーの増員計画 何年後に、どのポジションを、何人の現地社員に任せるか 駐在員の配置の見通し 駐在員を何人、いつまで置くか。どの役割から現地社員に渡すか 権限を渡す範囲 採用・評価・予算・取引先との交渉など、どこまで任せるか 選抜の基準 本社と共通の基準を使うか、拠点ごとに足すか
タイなど東南アジアの若手には、自分の力を伸ばせる環境を強く求める人が多いと、当社は見てきました。その意欲を受け止める道筋を示せるかどうかが、日系の海外拠点に問われています。日本人が主導して人事のすべてを決める時代は、もう終わりつつあります。
まとめ
次世代リーダーの選抜は、「何のために」「何で選ぶか」「選んだ後に何を渡すか」を先に決める
人材アセスメントは、同じ条件の場面での行動を、訓練を受けた観察者が見る方法。生まれや所属ではなく、行動で選ぶ考え方から始まった
人の取り合い、海外の比重、開示とガバナンスの流れで、「横並び」だけでは足りなくなっている
基準は層ごとに分け、行動の言葉で書く。選ぶ側を多様にして、似た人ばかり選ぶ罠を防ぐ
評価する人の目をそろえ、選んだ後の仕事と伴走、外れた人への説明まで設計する
海外拠点では、現地マネジャーの増員計画と権限を渡す範囲を先に決め、国籍に関係なく同じ基準で選ぶ
よくある質問
Q1. 次世代リーダーの候補は、何歳くらいから選べばよいですか?
会社の規模や事業によって変わります。課長になる前後の30代で一度選び、背伸びの経験を積ませる会社が多く見られます。年齢より大事なのは、選んだ後に任せるポジションと経験の道筋を用意できるかどうかです。道筋がないまま選ぶと、期待だけが高まって離職につながることがあります。
Q2. 選抜から外れた社員の意欲が下がりませんか?
下がることはあります。だからこそ、基準を公開して人事評価とそろえ、「どの力を伸ばせば次の機会があるか」を本人に伝えます。選抜を数年ごとに見直す仕組みにしておけば、もう一度挑戦する道も開けます。
Q3. 海外拠点の現地社員にも、日本と同じアセスメントを使えますか?
どんな力を見るかという基準は、本社と共通にしておくのが基本です。一方、演習の題材は現地の仕事の場面に合わせ、現地の言葉で受けられるようにします。評価する人に現地のマネジャーを加え、日本人の見方だけに偏らないようにします。
まずは手軽に:簡易型の管理職アセスメント「bMRC-20」
「いきなり本格的なアセスメントは大がかりだ」「まずは候補者の傾向をつかみたい」。そんな会社のために、beyond global では簡易型のアセスメント「beyond マネジメント適性診断20(bMRC-20)」 をご用意しています。
20問・4択の簡易インバスケット形式 :管理職が日々出会う場面で「どう判断し、どう動くか」を答えてもらいます
10の力を見える化 :管理能力(イニシアティブ・リーダーシップ・統制力・完遂力)、対人能力(表現力・権限委譲)、思考能力(理解力・分析力、計画組織力、判断力、決断力)
日本・シンガポール・タイ :それぞれの拠点に合わせた設問を用意しており、海外拠点の現地マネジャー候補にも使えます
選抜の候補者を絞り込む前の手がかりに、管理職研修の前後で変化を確かめる材料に、といった使い方ができます。
bMRC-20 の詳しい資料をご希望の方へ
資料請求フォームの「お問い合わせ内容」に「bMRC-20 の資料希望」とご記入ください。担当より、詳しいご案内をお送りします。
→ 資料請求フォームはこちら
相談の案内
beyond global は、日本・シンガポール・タイを拠点に、次世代リーダーの選抜と育成、その土台になる人事制度づくりを支援しています。選抜の基準づくりから、候補者の育成プログラム、海外拠点での現地リーダーの育成まで、貴社の状況に合わせて組み立てます。
「次世代リーダーの候補を、どんな基準で選べばよいか分からない」「海外拠点で現地社員を幹部に育てたい」という段階からご相談いただけます。無料個別面談 で、課題の整理と、他社での進め方のご紹介をいたします。
→ 次世代リーダー育成の事例を見る
→ 人事制度の事例を見る
→ 無料個別面談のお申し込み・お問い合わせ
関連記事:
– グローバルリーダーとは? ― 日本企業が育てるべき4つのタイプ
– タイの人事評価・人事考課が機能しない理由
– 海外拠点の「現地化」はなぜ失敗するのか
beyond global group では、日本企業のグローバル化促進・企業体質の変革支援のために無料個別相談会を実施しております。
弊社のコンサルタントが、企業様のお悩みをお聞きした上で、課題の整理 / 他社事例のご紹介 / 予算の算出 / 解決策のご提案をいたします。
執筆者
beyond global group President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。