私、森田英一はかつて、研修会社を創業し、社長を10期務めました。新入社員研修や若手研修を、多くの大企業で手がけてきました。そのうえで行き着いたのが、「若手向けの研修だけだと、会社は変わらない」という実感です。
研修で前向きになった若手が戻る先は、管理職が率いる職場です。その職場が変わらなければ、研修の熱は少しずつ冷めていきます。では、管理職研修なら会社は変わるのか。ここにも同じ落とし穴があります。管理職研修の満足度は高いのに、半年後に職場を訪ねると元通り。人事の責任者から、こうした相談を今もよくいただきます。
研修の中身が悪いことは、実はあまりありません。多くの場合、問題は研修の「外」にあります。研修の前に、目的とゴールが決まっていない。研修の後に、試して振り返る場がない。この記事では、管理職研修を「その場の気づき」で終わらせず、職場での行動の変化につなげる設計を、順を追ってお伝えします。
この記事で分かること
管理職研修の効果が続かない理由
研修を企画する前に決める「目的」と「ゴール」
研修の中で、管理職が自分の思い込みに気づく仕掛け
研修後90日の進め方と、効果の測り方
テーマ型と実践型、研修の形式の選び方
管理職研修の効果が続かない3つの理由
1. 職場に戻ると、いつもの忙しさが待っている
管理職は、研修の日だけ時間を空けて参加します。研修では多くの気づきがあり、「明日からこうしよう」と決めて帰ります。ところが職場には、溜まったメール、会議、部下からの相談、自分自身の数字が待っています。研修で決めたことは、1週間もすれば日々の業務に埋もれていきます。
管理職の負担は重くなる一方です。リクルートマネジメントソリューションズが2026年6月に行った調査(人事担当者500名・管理職層500名)では、管理職層の78.0%、人事担当者の71.0%が「管理職に課題がある」と答えました。管理職自身が最も難しいと感じている仕事は「メンバーの育成」で、管理職層が挙げた課題の上位には「仕事の増加・負担の増大」が入っています(「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2026」 、2026年8月公表)。
仕事が積み上がったままの状態で、研修で「あれも、これも」を足しても、実行する時間がありません。
2. 目的とゴールが決まらないまま、研修が始まる
管理職研修を選ぶとき、多くの会社は「コーチング」「評価者研修」「戦略」といったテーマの一覧から選びます。このとき抜け落ちやすいのが、次の2つです。
目的:なぜ、いまこの研修をするのか
ゴール:何がどうなったら、この研修は成功したと言えるのか
この2つが曖昧なまま実施すると、研修をすること自体が目的になります。終わったあとに、良かったかどうかを判断する物差しもありません。
3. 研修が、受講者「一人」の出来事で終わる
研修を受けるのは管理職本人です。しかし、行動を続けられるかどうかは、本人だけでは決まりません。受講者の上司が「研修はいいから、まず数字を」と言えば、新しい行動は真っ先に後回しになります。部下の側も、上司が急に関わり方を変えると戸惑います。研修を、本人と上司・部下・人事が関わる「職場の取り組み」として設計しているかどうか。ここで差がつきます。
研修を企画する前に決める「目的」と「ゴール」
自社の管理職の課題を洗い出す
まず、自社の管理職にどんな課題があるかを確かめます。次のうち、当てはまるものはいくつありますか。
目の前の数字に追われ、短期・自部署だけの判断になっている
次々に起きる問題を、一人で抱え込んでいる
部下との関係が薄くなり、部下の意欲が下がっている(本人はそれに気づいていない)
会社のビジョンや事業計画を、自分の言葉で語れない
そもそも「マネジメントとは何か」を学ぶ機会がなかった
部下を育てようとしても、育たない
過去の成功体験にとらわれ、やり方を変えられない
当てはまった項目が、研修の目的を決める材料になります。たとえば「一人で抱え込む」が多いなら、目的は「任せ方を身につけ、チームで成果を出す」になります。
ゴールは「満足度」ではなく「職場の行動」で決める
ゴールは、できるだけ測れる形にします。おすすめは、「管理職本人が研修で変えると決めた行動が、3か月後に部下から見て変わっているか」で決めることです。
研修の効果を考えるときによく使われる枠組みに、「反応(満足したか)→学習(理解したか)→行動(職場で行動が変わったか)→成果(業績につながったか)」の4段階があります(米国の研究者カークパトリックが提唱)。多くの会社は、最初の「反応」、つまり満足度アンケートで止まっています。管理職研修で本当に確かめたいのは、3段目の「行動」です。
研修の中で起こしたい3つの転換
管理職研修で目指すのは、「自分を振り返り、メンバーの力を引き出すマネジャー」に変わることです。そのために、研修の中で次の3つの転換を起こします。
個人技から、チームで成果を出すマネジメントへ
成績の良いプレイヤーだった人ほど、「自分がやったほうが早い」と考えます。しかし管理職の成果は、チーム全体の成果です。自分が頑張るのではなく、チームが頑張れる状態をつくる。この発想の切り替えが最初の転換です。
力を削ぐ関わりから、力を引き出す関わりへ
管理職の多くは、良かれと思って部下に関わっています。それが、実は部下の力を削いでいることがあります。
相談にすぐ答えを出した結果、部下が自分で考えなくなる
部下と話しながら、パソコンの画面や時計ばかり見ている
足りない点ばかりを伝え、成長の後押しになっていない
自分の関わり方が相手にどう伝わっているかを知る。これが2つ目の転換です。
「目の前・自部署」から「全体・将来」へ
今日明日の数字や自部署の都合だけで判断するのではなく、組織全体と長い時間軸で考える。これが3つ目の転換です。
「知っている」と「できている」の差に気づかせる
この3つは、聞けば誰もが「その通り」と思う内容です。だからこそ、知識として教えるだけでは行動は変わりません。研修の中で、自分の実際の行動と突き合わせる場面をつくります。
使うのは、自己評価、部下や同僚から見た評価(360度評価)、自分が抱えている問題意識やあきらめといった「自分自身の材料」です。他人の事例ではなく自分の材料を扱うと、「できているつもりだったが、できていなかった」という気づきが生まれます。
当社が支援したある会社の課長は、部下の相談には必ず答えを返していました。マネジメントの原則も理解しており、研修の初日は「知っていることの復習」だったと話していました。
2日目、職場から集めた360度評価の結果を見て、言葉を失いました。部下からこんな声が寄せられていたのです。「何をすべきか言ってもらえるので、自分で考えなくても仕事が進みます」「考える前に指示が来るので、自分がいる意味や成長を感じられません」。
助けているつもりが、部下の考える力を奪っていた。翌朝、この課長はその気づきを受講者全員の前で話し、「答え」ではなく「問い」で部下に関わると決めました。気づきが自分の深いところまで届いたとき、行動は変わり始めます。そして、その行動を職場で続けられるかどうかは、研修の後の設計にかかっています。
(注:個人や会社が特定されないよう、要素を整えて紹介しています)
上司と部下の間にある「見えない溝」を扱う
お互いに、相手の本音を知らない
管理職研修でほぼ必ず話題になるのが、部下との関係です。上司の側からは、「育てる時間がない」「心を開いてくれない」「やる気が感じられない」「もっとできる人を配属してほしい」という声が聞かれます。
一方、部下の側からは、「上司は忙しそうで、話しかけたら悪い」「この仕事を続けて、自分は幸せになれるのだろうか」「上司は自分に期待していないと思う」「話を聞いてもらえない」という声が聞かれます。
お互いに、相手の本音を知りません。そして多くの管理職は、部下が育たない原因を「部下のやる気」や「部下の能力」に求めます。溝があること自体に気づいていないのです。
研修だけで溝は埋まりません。スキルの高い管理職がいても、部下との関係が悪ければチームは動きません。だから私たちは、研修(スキルと意識)に加えて、職場の関係性そのものを扱う対話の場もあわせて設計しています。
研修で確かめたい行動のチェックリスト
業績の達成と部下の育成は、別々の仕事ではありません。部下の成長がチームの成果につながるように関わることが、管理職の役割です。研修では、次のような行動ができているかを確かめます。
部下の経歴や、仕事をするうえで大切にしていることを知っている
部下の将来のキャリアの希望を知っている
管理職自身が、自分のキャリアの方向性を持っている
表面的でない期待を、部下に言葉で伝えている
現場から意見が出る話し合いの場をつくっている
部下を信頼し、裁量を渡している
部下が会社全体の視点で考える機会をつくっている
研修後90日で「習慣」にする進め方
なぜ90日なのか
研修で、気づきを得たり意識を変えたりすることはできます。しかし、行動まで変わったかどうかは、職場でしか確かめられません。「気づく」「行動を変える」「周りから変わったと言われる」。ここまでには時間がかかります。
新しい行動が習慣になるまでの期間を調べた研究では、意識しなくてもできるようになるまでの日数は、人と行動によって大きく異なりました。中央値は66日、幅は18日から254日です(Lally ほか、European Journal of Social Psychology、2010年)。週に一度の部下との面談のような行動は、毎日の行動より機会が少ないぶん、さらに時間がかかります。
研修後の90日は、新しい行動を「試す」「振り返る」「また試す」を何度か回し、最初の変化を周りが感じ始めるまでの目安です。
90日の流れ
時期 やること 関わる人 研修前 受講者の上司が「何を期待して送り出すのか」を本人に伝える。研修前の360度評価をとる 上司・人事 研修直後 変える行動を2〜3個に絞り、行動計画にする。上司と共有する 本人・上司 2週間後 研修で決めたことを思い出してもらう。「やってみてどうだったか」を短く聞く 人事・講師 1か月後 同じ研修を受けた管理職どうしで、試したこと・うまくいかなかったことを共有する 受講者どうし 90日後 同じ項目で360度評価をとり、研修前と比べる。できたこと・できなかったことを振り返る 本人・上司・人事
続けるための3つのポイント
一人にしない:うまくいかなかった話を安心して出せる仲間がいると、行動は続きます。受講者どうしの共有の場は、研修本体と同じくらい大切です
変える行動を絞る:「あれもこれも」と決めると、どれも続きません。2〜3個に絞り、部下から見て分かる行動にします
変化を見せて認める:90日後に、部下から見た評価がどう変わったかを数字で本人に返します。手応えを実感できると、次の行動につながります
研修の形式は、目的とゴールで選ぶ
管理職研修の形式は、大きく2つに分かれます。
形式 中身の例 向いている目的 テーマ型 コーチング、ファシリテーション、評価者研修、戦略立案などの知識・スキルを学ぶ 足りない知識やスキルがはっきりしている 実践型 ケーススタディ、ロールプレイ、現場でのフィールドワーク、海外での実務経験など 意識と行動を変えたい。自分の思い込みに気づかせたい
どちらが良いかは、目的とゴールで決まります。「行動を変えたい」のにテーマ型の講義だけを並べても、行動は変わりません。逆に、基本の知識が足りない層にいきなり実践型を入れても、何を試せばよいか分かりません。多くの場合は、知識のインプットと、自分の材料を使った実践を組み合わせます。
研修会社が示すラインナップから選ぶ前に、「なぜやるのか」「何をもって成功とするのか」を社内で言葉にしてください。この前提が決まって初めて、自社に必要な管理職研修が見えてきます。
まとめ
管理職研修の効果が続かない主な理由は、職場の忙しさ、目的とゴールの曖昧さ、研修が本人一人の出来事で終わること
ゴールは満足度ではなく、「本人が変えると決めた行動が、部下から見て変わったか」で決める
研修の中では、360度評価など自分の材料を扱い、「知っている」と「できている」の差に気づかせる
研修後の90日は、行動を試し、振り返り、最初の変化を周りが感じ始めるまでの目安。上司と仲間を巻き込んで設計する
研修の形式は、目的とゴールから逆算して選ぶ
そもそも管理職に何を期待するのかを整理したい方は、関連記事「管理職の役割とは? 成果と育成を両立させる4つの行動と、会社が整えるべきこと」もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q1. 管理職研修の効果は、どうやって測ればよいですか?
満足度アンケートだけでなく、職場での行動の変化を測ります。分かりやすいのは、研修前と研修の約3か月後に、部下や同僚から見た行動を360度評価で比べる方法です。項目を、本人が「変える」と決めた行動に絞ると、本人も結果を受け止めやすくなります。
Q2. 研修は何日くらい必要ですか?
日数より、研修の後に何をするかが大切です。2日間の研修でも、その後に実践と振り返りの機会が続けば行動は変わります。逆に、長い研修でも後のフォローがなければ、元に戻りやすくなります。研修日数と同じくらい、研修後の数か月の設計に時間をかけてください。
Q3. 受講者の上司や経営者は、どう関わればよいですか?
受講者の上司には、研修の前に「何を期待して送り出すのか」を本人に伝えてもらい、研修の後には本人の行動計画を一緒に確認してもらいます。経営者には、管理職に期待することを自分の言葉で伝え、変化を確かめる場に出てもらうことが効果的です。
「管理職の意識行動変容プログラム」の案内
beyond global の「マネジャー・リブート・プログラム」は、管理職の仕事を「足し算」から「引き算」に変え、生まれた余白を部下と向き合う時間に戻すためのプログラムです。
研修と職場での実践を12か月往復し、最初の90日で行動の変化を確かめ、1年かけて定着させます。360度サーベイで周りから見た行動の変化を数字で確かめ、経営者が変化を自分の目で確認できる場も、あらかじめ設計に組み込んでいます。
「研修の満足度は高いのに、現場が変わらない」「研修の効果を経営に説明できる形で示したい」。そんなお悩みがあれば、無料個別面談でお聞かせください。
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本文で使った数字の出典
リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2026」(調査2026年6月、公表2026年8月31日。従業員100名以上の企業の人事担当者500名・管理職層500名)。リクルートマネジメントソリューションズのプレスリリース
Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998-1009.
カークパトリックの4段階評価モデル(Donald L. Kirkpatrick、1959年に提唱)
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弊社のコンサルタントが、企業様のお悩みをお聞きした上で、課題の整理 / 他社事例のご紹介 / 予算の算出 / 解決策のご提案をいたします。
執筆者
beyond global group President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。