私、森田英一は以前、新入社員・若手向けの研修を中心とする会社を、10期にわたって経営していました。大手企業を中心に、たくさんの若手研修を手がけた会社です。それでも、あるとき気づきました。「若手向けの研修だけだと、会社は変わらない」。この気づきが、会社を次の社長に譲り、組織そのものを変える仕事へ向かうきっかけになりました。
研修で前向きになった若手も、翌日から毎日向き合うのは職場の上司です。会社の方針を現場の仕事に置き換えるのも、部下の成長を一番近くで支えるのも管理職です。組織が変わるかどうかは、管理職が本来の役割を果たせるかどうかに大きく左右されます。
先に結論を書きます。管理職の役割は、「担当する組織の成果を出すこと」と「部下を育てること」を、別々ではなく1つの仕事として果たすことです。この2つ自体は昔から変わっていません。変わったのは、それを果たすための条件です。
この記事で分かること
管理職の役割の定義と、いまの環境での捉え直し方
管理職が役割を果たしにくくなっている理由(最新の調査から)
これからの管理職に求められる3つの能力と、4つの実践行動のチェックリスト
役割を果たせない管理職に共通するつまずきと、経営者・人事が整えるべき3つのこと
管理職の役割は「組織の成果」と「部下の育成」
管理職とは誰のことか
日本の会社で「管理職」というと、課長・部長などの役職者を指すのが一般的です。労働基準法でいう「管理監督者」(残業代の対象外となる立場)とは範囲が違い、課長でも管理監督者に当たらない場合があります。この記事では、部下を持ち、担当組織の成果に責任を負う課長・部長層を「管理職」と呼びます。
経営学者のピーター・ドラッカーは、マネジャーを「組織の成果に責任を持つ者」と定義しました。ポイントは「自分の成果」ではなく「組織の成果」だという点です。どれだけ自分が売っても、チームの成果が上がらなければ、管理職としての役割は果たせていません。
成果と育成を分けると、育成が負ける
管理職の役割を「業績を上げる」と「部下を育てる」の2つに分けて考えると、時間の取り合いになります。今月の数字が厳しければ、育成は後回しになる。多くの職場で起きているのはこれです。
本来、この2つはつながっています。部下が育てばチームの成果が上がり、チームで成果を出す経験が部下を育てます。管理職の仕事は、この循環を回すことです。短期の業績だけでなく、顧客、仕事の進め方、人の成長まで含めて組織を見る必要があります。
ゴールは「自分がいなくても回る組織」
自分も実務を担いながら管理職をする「プレイングマネジャー」が当たり前になった今、見失いやすいのがこの点です。
目指すのは「自分が一番成果を出すチーム」ではなく、「自分が抜けても目的を果たせるチーム」です。自分が1か月いなくても成果が落ちないチームをつくれたとき、管理職は役割を果たしていると言えます。
なぜ今、管理職は役割を果たしにくいのか
課長のほとんどがプレイヤーを兼ねている
産業能率大学総合研究所とHR総研が企業の人事担当者331人に聞いた調査では、課長がプレイヤーの仕事と管理職の仕事を完全に分けている企業は2.1%にとどまり、98%の企業で課長はプレイングマネジャーでした。同じ調査で、課長に強化してほしい能力の1位は「部下を育成する力」(66.5%)です(『ミドルマネジャーの人事実態調査2023』 2023年)。
会社は育成を期待している。しかし課長は自分の数字も抱えている。期待と現実のずれが、数字にそのまま表れています。
管理職になりたい人が減っている
パーソル総合研究所の「働く1万人の就業・成長定点調査」2026年版では、正社員のうち「今の会社で管理職になりたい」と答えた人は17%で、2018年の調査開始以来、最も低くなったと報じられています。管理職の役割が増える一方で報われにくい状態は「管理職の罰ゲーム化」とも呼ばれます(小林祐児『罰ゲーム化する管理職』集英社インターナショナル、2024年)。
問題は本人の努力ではなく構造
管理職が手を抜いているわけではありません。むしろ、社内で一番忙しく働いている人たちです。自分の数字、会議と承認、ハラスメントへの配慮、働き方の管理。そこへ「部下一人ひとりと向き合え」が加わります。仕事が管理職に集まり続ける構造を変えない限り、どれだけ本人を励ましても役割は果たせません。
これからの管理職に求められる3つの能力
「同じ考えの集団を指示で動かす」型の限界
かつての日本企業は、同じ価値観を持つ社員が上の方針に忠実に動くことで強さを発揮してきました。上司が「こうすべきだ」を示し、部下が実行する。市場が伸び、正解がはっきりしていた時代には、これでうまくいきました。
いまは前提が違います。中途入社、外国籍、時短勤務、副業をする社員。価値観も働き方も違う人が同じチームにいます。正解も、上司がいつも知っているとは限りません。
3つの能力
こうした環境で成果を出すために、管理職には次の3つの能力が求められます。
能力 中身 欠けると起きること 意欲を成果に変える力 部下一人ひとりの動機を知り、仕事への熱意を高めて成果につなげる 言われたことしかしないチームになる 本音を言える場をつくる力 立場に関係なく意見や懸念を言える状態(心理的安全性)をつくる 問題が上がってこず、気づいたときには手遅れになる 違う意見をまとめて活かす力 異なる考えをぶつけ合い、より良い結論に導く 声の大きい人の意見で決まり、多様な人材が去る
3つとも「自分が正しく判断する力」ではなく、「チームが力を出せる状態をつくる力」です。ここが、これまでの管理職像との一番の違いです。
成果を出す管理職の4つの実践行動(チェックリスト)
能力は目に見えません。そこで、組織の成果を出している管理職に共通する行動を4つにまとめました。自社の管理職、あるいはご自身に当てはめてチェックしてみてください。
1. 戦略的に「選び、捨てる」
会社の方針を踏まえた自部署の方針を、自分の言葉で部下に語り、部下が納得している
自分とチームの仕事に「やらないこと」の順位をつけている
判断の軸がはっきりしていて、決めるべきことを素早く決めている
2. 時間あたりの成果を上げる
自分の仕事を、時間あたりの成果で見直している
手順の効率化だけでなく、「そもそもやる意味があるか」から見直している
チームにとって最も大事なことを3つに絞り、それ以外は手放している
3. 一人ひとりの強みを活かす
部下の経歴、将来の希望、やる気の源を知っている
部下の強みを本人と共有し、キャリアの方向を一緒に話している
仕事を任せたら、途中で取り上げず最後まで本人にやらせている
4. 挑戦を後押しし、新しい価値をつくる
確実でなくても、勝算が上回ると判断したら挑戦にGOを出している
会議を上からの伝達の場にせず、現場の本音や問題意識を出し合う場にしている
今の仕事の効率化と、新しい価値づくりの両方に目標を置いている
チェックが少なかった項目が、その管理職の伸びしろです。私の見るところ、多くの場合は1の「選び、捨てる」ができていないために、2〜4に使う時間が残っていません。
役割を果たせない管理職のつまずき方
事例1:100名の部下を抱え、全部自分でやってしまう課長
当社が支援したある製造業に、100名の部下と2つの事業を抱える課長がいました。自分も数字を持ち、常に全力で走り、目標も達成してきた方です。ところが組織の統合で、それまで関わりのなかった部署まで見ることになり、どうマネジメントすればよいか分からなくなっていました。
4つの行動でいえば、「選び、捨てる」がまったくできていない状態でした。部下に任せきれず、最後は自分でやってしまうからです。
話を聞くうちに、理由が見えてきました。部下を信用していないのではなく、「自分に自信がなく、弱いところを見せたくない」という気持ちだったのです。その本音を部下に打ち明けたことで肩の力が抜け、少しずつ権限と責任を部下に渡せるようになりました。
人の配置や仕組みを変える前に、管理職本人の意識が変わることで動き出す場合があります。
事例2:過去の成功体験を手放せない部長
同じく当社が支援した、全国に拠点を持つサービス会社の部長は、「結果さえ出せばいい」という考えで走ってきた方でした。研修を受けても、自分のやり方は変えません。その下では、メンバーの意欲低下と離職が続いていました。
研修のあとに一対一で話を聞くと、意外な言葉が返ってきました。「自分のやり方が通用しなくなっていることには気づいていた。でも、どうしてよいか誰にも相談できなかった」。
強く見える管理職ほど、相談相手がいません。新しいマネジメントのやり方を知り、試し、振り返る機会があれば、人は変われます。足りなかったのは本人の意欲ではなく、その機会でした。
(注:上の2つは当社の支援事例です。個人や会社が特定されないよう、要素を整えています)
管理職の5つのタイプ(当社の整理)
つまずき方には、いくつかの型があります。自社の管理職にどの型が多いかで、打ち手も変わります。
タイプ 特徴 打ち手の方向 自走型 目的も目標も自分の中で明確。迷わず動く 権限と挑戦の機会を渡す マイペース型 自分の目標には忠実だが、周りへの関心が薄く空回りしやすい チームの目標とのつながりを見せる 上司次第型 信頼する上司の期待には必ず応えるが、自分の意思が見えにくい 自分で決める場面を意図して増やす 不満型 環境や人への不満が強く、周りに悪い影響を与えている 不満の奥にある「本当はこうしたい」を聞く 現状維持型 人当たりがよく頼られるが、変わる必要を感じていない 変わる必要がある理由を、数字と現場の声で示す
管理職が役割を果たせるように、会社が整えるべき3つのこと
管理職の行動は、本人の努力だけでは変わりません。管理職を取り巻く仕組みと、経営の関わり方で決まる部分が大きいのです。
1. 管理職の仕事を「引き算」する
最初にやるべきは、管理職から仕事を減らすことです。プレイヤーとしての実務、形だけの会議や承認、報告書づくり。積み上がった仕事の上に、研修で「あれも、これも」を足しても、日々の業務に埋もれてしまいます。
抱え込んでいる実務を部下に任せる。形だけの調整や承認をやめる。定型の事務作業はAIやシステムに任せる。そうして生まれた時間を、部下と向き合う時間に戻します。
2. 評価を「育成の場」にし、管理職自身の評価も変える
管理職が部下を育てる一番の機会は、評価とフィードバックです。部下が「何ができれば次の等級に上がるのか」「この会社でどんなキャリアを歩めるのか」を理解できる評価制度があれば、管理職は育成の話をしやすくなります。
同時に、管理職自身の評価基準も見直します。会社が人材の育成や新しい価値づくりを求めるなら、それが管理職の目標と評価に入っていなければなりません。数字の達成だけで評価される管理職が、育成に時間を割かないのは当然です。
3. 経営トップが関わる
管理職が本気で変わる会社には、共通点があります。
経営者が、管理職に何を期待しているかを自分の言葉で発信している
経営者自身が、管理職の育成に関わっている
経営者が管理職と直接向き合い、ときに議論している
反対に、うまくいかない会社の多くは「人事部任せ」です。人事部が研修を企画し、経営者は報告を受けるだけ。これでは管理職は「また研修か」と受け止めます。
海外に拠点がある会社は、その先も見ておく
海外の売上や拠点が増えている会社では、異なる文化、言語、商習慣の中で現地の社員を束ねる管理職が必要になります。国内で「チームが力を出せる状態をつくる」ことができる管理職は、海外でもその土台を活かせます。逆に、指示で動かすやり方しか知らない管理職は、海外で一番苦労します。
まとめ
管理職の役割は「担当組織の成果」と「部下の育成」を、1つの仕事として同時に果たすこと。ゴールは自分がいなくても回るチーム
課長の98%がプレイヤーを兼ねており、会社が期待する育成に時間を割けていない。原因は本人の努力不足ではなく、仕事が集まり続ける構造にある
これからの管理職には、意欲を成果に変える力、本音を言える場をつくる力、違う意見を活かす力が求められる
実践行動は「選び、捨てる」「時間あたりの成果を上げる」「強みを活かす」「挑戦を後押しする」の4つ。多くは1つ目ができずに時間を失っている
会社がやるべきことは、仕事の引き算、評価の見直し、経営トップの関与の3つ
研修をどう設計すれば管理職の行動が変わるのかは、関連記事「管理職研修で行動は変わるのか 90日で『気づき』を『習慣』に変える設計と進め方」で詳しく書いています。
よくある質問
Q1. 管理職とプレイヤーの仕事は、どう線を引けばよいですか?
時間の配分で考えるのが現実的です。まず1〜2週間、自分の時間の使い方を記録し、「自分にしかできない仕事」と「任せられる仕事」に分けてみてください。多くの場合、任せられる仕事が思った以上に見つかります。プレイヤーの仕事をゼロにする必要はありませんが、「自分が抜けても回るか」を基準に減らしていきます。
Q2. 管理職に求められる能力は、役職によって違いますか?
土台は同じですが、比重が変わります。係長・課長層では、目の前のチームを動かし、部下を育てる力の比重が大きくなります。部長層になると、複数のチームをまたいだ判断や、会社の方針を自部門の戦略に置き換える力の比重が大きくなります。
Q3. 管理職研修だけで、管理職は変わりますか?
研修だけでは変わりにくいのが実情です。研修で気づいても、職場に戻れば元の忙しさが待っています。行動が変わるには、仕事を減らして時間をつくること、現場で試して振り返る機会を続けること、経営者が関わることの3つが要ります。
「管理職の意識・行動変容プログラム」の案内
beyond global では、管理職を本来の仕事に戻すための「マネジャー・リブート・プログラム」をご提供しています。
再起動するのは、管理職ご本人ではありません。管理職を縛ってきた仕組みのほうです。抱え込んだ仕事を「引き算」して時間をつくり、研修と現場での実践を12ヶ月往復しながら、360度サーベイなどで行動の変化を確かめます。
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執筆者
beyond global group President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。