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オンラインコミュニティ ― 今、現れつつある新しい可能性(田原真人氏 寄稿)


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    2016.10.13
オンラインコミュニティ

本稿は、2016年に田原真人氏から旧「グローバルリーダーシップ研究所 beyond」へご寄稿いただいたものの再掲です。

寄稿:田原真人氏(オンライン教育プロデューサー・自己組織化ファシリテーター)。所属・肩書きは寄稿当時のものです。数字・サービス名も当時のものです。

はじめに(編集部)

20人で始めたオンラインの読書会が、3年後には4,000人を超えるコミュニティになり、そこからいくつもの事業が生まれた。2016年、物理学で自己組織化(指示する中心がなくても、部分どうしのやりとりから全体の秩序が生まれる現象)を研究してきた田原真人氏に、その歩みをご寄稿いただきました。

ビデオ会議でワークショップを行うことがまだ珍しかった時期の文章です。それでも、コミュニティが育つ5つの段階、一歩踏み出した人の話を聞くことの意味、本業とは別の「第三の場所」だからこそ回る学びの循環など、組織づくりに携わる人が今読んでも考えさせられる論点が詰まっています。

田原さんと beyond global 代表の森田英一は、その後も協業を続けています。2026年9月には、西荻窪で「志で自走する組織とは?」をテーマに対談しました。

この記事で分かること

  • オンラインコミュニティが育つ5つの段階(発芽期・学び合い期・社会実験期・事業展開期・分化期)
  • 一人ひとりが主体的に動き出すコミュニティの運営のヒント

【寄稿】オンラインコミュニティ ― 今、現れつつある新しい可能性(田原真人)

サイバネティクスの創始者であるノーバート・ウィーナーは、社会的昆虫が作る社会と人間社会とを比較考察し、その根本的な違いは学習の有無であると結論した。

彼は、学習の本質は、メッセージのやりとりに対してフィードバック制御が働き、常に調整され続けることであると考えた。コミュニケーションにより、メッセージをやりとりすることによって学習回路が回り、コミュニケーション自体も変化していく。そのような動的な学習とコミュニケーションの在り方が、社会的昆虫とは異なる人間らしい社会を作っていくのだとウィーナーは考えたのだ。

ウィーナーの「学習を基盤とした社会秩序」という考え方は、インターネットという新しいコミュニケーション技術が生まれ、コミュニケーションの在り方に大きな変化が生じている現在、もう一度再考する価値があるのではないかと私は考えている。

オンラインコミュニティというサード・プレイス

レイ・オルデンバーグは、『ザ・グレート・グッド・プレイス』という著書の中で、サード・プレイスという言葉を定義した。ファースト・プレイスは自宅、セカンド・プレイスは職場である。それに対して、サード・プレイスはより創造的な交流が生まれる場所であり、非公式の出会いの場である。オルデンバーグによると、サード・プレイスは、次の特徴を備えている。

  • 無料あるいは安い
  • 食事や飲料が提供されている
  • アクセスがしやすい、歩いていけるような場所
  • 習慣的に集まってくる
  • フレンドリーで心地良い
  • 古い友人も新しい友人も見つかるようなところ

私は、2012年に「反転授業」と出会い、自分自身が学ぶために友人たちに声をかけ、オンラインの読書会を始めることにした。Facebookグループを作り、週に1回、Web会議室に集まり、論文を読んだり、議論をしたりということを始めたのだ。20名ほどではじまった活動は、わずか3年後には4000人を超える巨大なオンラインコミュニティになった。

「反転授業の研究」と呼ばれるオンラインコミュニティは、オルデンバーグのサード・プレイスの定義を非常に良く満たしている。食事や飲料は提供されないが、歩いて行かなくてもアクセスすることができる。

私たちは、このオンラインコミュニティで、新しい学習とコミュニケーションの在り方が、組織の在り方にどのように反映していくのかを実験してきた。ここでは、現実社会のしがらみから離れて大胆な実験を行うことができる。その結果、オンラインコミュニティでの体験を実生活に生かしたり、実生活での体験をオンラインでシェアしたりという、オンラインとリアルを行き来する学びの循環が生まれている。

オンラインコミュニティの発達段階

この3年間を振り返ると、オンラインコミュニティには発達段階があるのではないかと思う。これから、オンラインコミュニティを立ち上げていこうという人の参考になるように、私が体験したオンラインコミュニティの発達段階について紹介する。

オンラインコミュニティの5つの発達段階:発芽期(20名ほど)、学び合い期(500名超)、社会実験期(1,000名超)、事業展開期、分化期(4,000名超)。出典:田原真人氏の寄稿(2016年)

(1)発芽期

最初は、動画を使った教育に関心がある数名で集まって「反転授業」についての文献などを読みながら議論していた。そこから、次の段階へ進むきっかけは、パワフルな問いが生まれたことだった。

「無料の動画講義が世の中にあふれる時代に、教師が提供する価値は何だろうか?」 「グループで話し合うことは、学びにどのように繋がるのだろうか?」

これらの問いに導かれるように、探求が始まった。

(2)学び合い期

探求が始まるとすぐに、アクティブラーニングの実践者と繋がり、Web会議室で100名規模のオンライン勉強会を実施することになった。それをきっかけに、オンラインコミュニティに人が集まり始めた。コミュニティのメンバーがお互いに実践を報告し合う形でオンラインの学び合いが進んでいき、定期的に実施されるオンライン勉強会は、実践意欲を高める場となった。

この段階で気をつけていたのは、外から有名な人を連れてくるのではなく、コミュニティ内部で一歩踏み出した人の話を聞くようにしたこと。この結果、一歩踏み出す人が次々に現れてきた。

コミュニティの人数は500名を超えてきた。メンバーの約50パーセントが教師で、残りが企業人であった。メンバーの多様性を生かして集合知を生み出すために、共有ビジョンの必要性を感じるようになり、次のような問いを立てた。

「反転授業やアクティブラーニングは、知識基盤型社会、参加型社会に必要な21世紀型スキルを身につけることを目標にしているが、教員の多くが伝統的な教育を受けていて、チームによる価値創造を体験したことがないのに、どうやって生徒に伝えられるのだろうか?」

そこから、まずは、自分たちが体験していこうという気運が生まれ、次のような共有ビジョンが生まれた。

「主体的な学びについて学び合うことで、オンラインコミュニティに多様性のある森を育て、多様な収穫を分かち合おう」

(3)社会実験期

メンバー数が増えるにつれ、運営側の負担も増えてきたので、継続的な活動のために収益化を検討することになった。そこで、共有ビジョンに沿った形での収益化を考えることにした。

コミュニティでの学びを深めていくための有料のオンライン講座をスタートし、講座の設計、販売、運営などすべての活動から学びを得て共有していくことにし、メンバー数が1000名を超えた段階で、最初のオンライン講座を実施した。

反転授業に必要なスキルである、動画作成、授業設計、アクティブラーニング、ファシリテーションなどをテーマとしたオンライン講座を行い、講座運営方法のPDCAサイクルを回していった。その中で、講座のメリットを並べ立てて販売するという在り方が、教える側と教わる側という役割の固定に繋がっているのではないかという疑問が生まれ、オンライン講座の受講経験者から運営ボランティアを募集し、10-20名の運営チームを結成して講座を実施するようになった。

運営チームの人数が増えたことで、受講者中心で対話型の学びをオンライン上で行うことができるようになり、脱落者がほとんど現れず、講座修了後は、運営チームと受講者とが一体となった同窓会グループが毎回、結成されるという他に類を見ないオンライン講座を実施できるようになった。

そこで、コミュニティ内の集合知によって誕生したオンライン講座のフレームワークを、外部に提供していき、集合知→価値創造→価値提供の循環を生み出すとともに、オンライン講座運営という仕事を創出していくことを決め、他団体とのコラボレーションを始めた。

(4)事業展開期

2016年に入り、オンライン講座に使用していたWeb会議室Zoomにブレークアウトセッション機能が搭載されたことで、さらに大きな可能性が広がった。オンラインで対話型のワークショップを実施するための技術的なハードルが一気に下がったのだ。

リアルで実施されているワークショップや講座をオンラインで行うためのサポートを事業として展開していくことが可能になった。また、20名のプロジェクトチームを結成し、ホラクラシー*1型のチーム運営を完全リモートで行うノウハウ、オンラインでの遠隔研修、Zoomを使った遠隔会議のノウハウ、Zoom運営やテクニカルサポートのノウハウもコミュニティ内に蓄えられているため、それらも事業展開できるようになった。

(5)分化期

グループのメンバー数が4,000名を超え、全体で一つのプロジェクトを定期的に実施していくことが、コアチームとその他を分離させる原因になってきているように感じ始めた。その状況を打破するために、2016年8月にオンラインでオープン・スペース・テクノロジー(OST)*2を実施した。ここから、様々なアクションプランが立ち上がり、並行していくつものプロジェクトが走るようになることで、各自がコミットすることができる受け皿が増え、また、それぞれが主体的に取り組むことができる土壌が生まれるのではないかと考えている。

サードプレイスから立ち上がる新しい社会の在り方の可能性

サードプレイスでの活動は、各自が別に本業を持っているため、思い切ってリスクを取ることができる。そのため、経験学習サイクルを勢いよく回していくことができ、進化の速度を速めることができる。

また、勢いよく回る学びの渦が多くの人を引きつけ、コミュニティを発展させていく。経験学習サイクルが回る中で自然と共有ビジョンが生まれると、そのビジョンが道を切り開き、必要な情報やリソースが集まってくる。たった20名で行っていた読書会が、3年間で4,000名を超えるオンラインコミュニティに発展し、そこから多くの事業の種が生まれた。この経験は、私たちのマインドセットを大きく変容させた。

このようなことが可能になった背景には、Web会議室の性能が上がり、お互いの顔の表情、声の調子などを含めた非言語情報をストレス無くやりとりできるようになったことがある。スカイプを使っていた頃は、接続トラブルが対話を中断することが多くストレスが多かったが、Zoomを使うようになり、大幅に改善された。そのため、実際に会わなくても信頼関係を結び、ともに活動できるようになってきた。

「実際に会わないと信用できない」という部分を外すことで、人脈ネットワークの広がりは10倍以上の速さになった。私は、この変化が社会の在り方に地殻変動を起こすのではないかと考えている。

その仮説に基づき、現在、私が日常的にやっていることは、以下の3つである。

  • 想いを発信すること(ブログやFacebookで)
  • 想いでシンクロする人と対話すること(Zoomで対話する)
  • 想いを発信する人同士をつなぐこと(Zoomに数名で集まって話す)

この3つを繰り返していると、オンライン上にグループができ、自然発生的にプロジェクトがスタートし、発芽期へ突入する。

田原氏が日常的にやっている3つのこと:1 想いを発信する/2 想いでシンクロする人と対話する/3 想いを発信する人同士をつなぐ

同時にいくつものプロジェクトに参画していくと、その中から次の段階へ進むものが現れ、さらには、事業化へと繋がっていくものも現れる。

オンラインコミュニティというサードプレイスは、いくつものコミュニティに重複して所属することが可能であるため、たくさんの種を蒔くことができる。

自然農法家の福岡正信さんは、何種類もの種を粘土団子に混ぜ込んで、大量に粘土団子を撒いた。そのときに必要とされているものが発芽し、循環構造を生み出し、調和へと向かうというのだ。

私たちも、福岡さんに倣って、クラウドに粘土団子を撒いている。

そこからどんな芽が生えてくるかは、宇宙が教えてくれるはずだ。

私は、予想もしなかった人たちとオンラインで繋がり、想いが共鳴してオンラインコミュニティが生まれ、自己組織化が起こり、大きなうねりとなっていく先に、新しいパラダイムが生まれる可能性を感じている。


*1 ホラクラシー:役職による上下関係ではなく、役割と、その役割ごとの権限を明確にして運営する組織の形。権限が組織全体に分散しているのが特徴です。(編集部)

*2 オープン・スペース・テクノロジー(OST):大まかなテーマのもとに関係者が集まり、参加者自身が話し合いたい課題を出して、進め方も自分たちで決めていく話し合いの手法。一人ひとりの主体性を生かし、参加者の当事者意識を引き出すのが特徴です。(編集部)

寄稿者プロフィール(寄稿当時)

田原 真人(たはら・まさと)
オンライン教育プロデューサー・自己組織化ファシリテーター。早稲田大学理工学研究科博士課程で生命現象の自己組織化を研究したのち、河合塾の物理講師に。2005年に物理ネット予備校(フィズヨビ)を立ち上げる。反転授業との出会いをきっかけに、ピラミッド型の社会システムや教育システムに疑問を抱く。オンラインコミュニティに自己組織化を起こすための運営を実践し、コミュニケーションの在り方を変えることから組織や社会を変えることに取り組んでいる。


よくある質問(編集部)

Q1. オンラインコミュニティは、何人くらいから運営が難しくなりますか?

寄稿では、500名を超えたころに共有ビジョンの必要を感じ、1,000名を超えたころに運営の負担から収益化を考え、4,000名を超えたころに「コアチームとその他」が分かれ始めたと書かれています。人数そのものより、段階ごとに出てくる課題に合わせて運営の形を変えていくことが鍵になります。

Q2. メンバーの主体性を引き出すには、何から始めればよいですか?

田原さんは、外から有名な人を呼ぶのではなく、コミュニティの中で一歩踏み出した人の話を聞くようにした結果、一歩踏み出す人が次々に現れたと書いています。受講経験者を運営チームに招き入れ、教える側と教わる側の役割を固定しない工夫も紹介されています。

Q3. この考え方は、会社の組織づくりにも使えますか?

寄稿は本業とは別の「第三の場所」での実践ですが、パワフルな問いから始める、共有ビジョンを自分たちで言葉にする、いくつものプロジェクトを並行させて一人ひとりが関われる受け皿を増やす、といった点は社内のプロジェクトでも試せます。一方で、責任と権限のある会社では、全員で決めることだけでは進まない場面もあります。

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執筆者

森田 英一
beyond global group
President & CEO
森田 英一

大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。