国内のある企業では、採用した外国人社員が入社して1〜2年で辞めていました。外国人社員は優秀で、会社としては手放したくない人たちでした。そこで、年功序列に近かった評価制度を、実力で評価する仕組みに完全に切り替えました。あわせて、人事評価の結果を本人にきちんとフィードバックし、この会社でどんなキャリアを歩めるのかを示すようにしました。すると、外国人社員が定着するようになったのです。
「やっと仕事を覚えたと思ったら辞めてしまった」「言われたことしかやらない」「定時になると仕事の途中でも帰ってしまう」。外国人社員を受け入れている職場で、こうした声をよく聞きます。
一方で、外国人社員に話を聞くと、まったく違う景色が見えてきます。「何を期待されているのか、誰も説明してくれない」「大事な仕事は日本人だけで決めてしまう」。辞める理由の多くは、本人の資質よりも、受け入れる側の仕組みにあります。
この記事では、次のことが分かります。
2026年の外国人雇用の現状と、育成就労制度で何が変わるか
外国人社員が辞めていく職場に共通する構造
「日本の働き方」を言葉にして伝えるオンボーディングの考え方
離職を防ぐ90日の受け入れ設計と、チェックリスト
2026年の外国人雇用:数字で見る現在地
まず、外国人雇用の今を数字で確認します。
項目 数字 出典 日本で働く外国人労働者数 257万1,037人(前年比11.7%増、過去最多) 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」 2025年10月末時点(2026年1月公表)外国人を雇用する事業所数 37万1,215か所 同上 国籍別の上位 ベトナム60.6万人、中国43.2万人、フィリピン26.1万人 同上 在留資格別の最多 専門的・技術的分野 86.6万人 同上 在留資格「特定技能」の人数 39万296人(前年比37.2%増) 出入国在留管理庁、2025年末時点
外国人社員はもはや一部の大企業だけの話ではありません。37万を超える事業所が、外国人とともに働いています。
2027年4月、育成就労制度が始まる
もう一つの大きな変化が、制度の転換です。2024年6月に成立した改正入管法により、技能実習制度は廃止され、2027年4月1日から「育成就労制度」 が始まります。
企業の受け入れ方に関わる主な変更点は次のとおりです。
目的が変わる :「国際貢献」から「人材の育成と確保」へ
転籍(職場を移ること)ができる :同じ業務区分の中で、一定期間(分野により1〜2年)働き、技能と日本語の試験に合格するなどの条件を満たせば、本人の意向で職場を移れる
特定技能につながる :3年間で特定技能1号の水準まで育て、移行することを目指す
これまでの技能実習では、原則として本人の意向で職場を移ることはできませんでした。これからは、働く人が職場を選び直せるようになります。「選ばれる職場」でなければ、育てた人が移っていく時代 になるということです。オンボーディング(受け入れから戦力化までの支援)と離職防止は、制度の上でも避けて通れないテーマになりました。
「うまくマネジメントする」発想を一度捨てる
外国人の部下を持つことになった人が、よく口にする悩みがあります。「どうすれば外国人社員をうまくマネジメントできるのか」。
ここで一つ問い直したいことがあります。外国人社員は、「うまくマネジメントされること」を望んでいるのでしょうか。
インドネシア人エンジニアの言葉
以前、当社が日本企業で働くインドネシア人エンジニアにインタビューしたとき、印象的な言葉を聞きました。
「日本人は働くために生活し、インドネシア人は生活するために働きます」
彼は最初、日本企業の勤務時間の長さに不満を持っていたそうです。ところが日本人の同僚と、働く時間やその背景にある仕事観について話し合ううちに、見方が変わりました。日本人は良い仕事をするために、体調を整え、時間を管理している。それを知って自分もまねしてみると、仕事の効率が上がり、勤務時間も短くなりました。何より、自分が成長している実感を持てたと言います。
彼に起きたことは、「うまく管理された」ことではありません。「日本企業で活躍するコツを、自分で理解した」 ことです。外国人社員に必要なのは、管理の巧みさより、働き方の「なぜ」を知る機会です。
暗黙のルールを言葉にする:日本企業で成功する5つのポイント
日本人にとって当たり前の仕事観は、外国人社員にとって当たり前ではありません。しかも日本の職場では、その多くが言葉にされないまま共有されています。
異文化マネジメントを専門とする河谷隆司氏は、日本人が大切にする仕事観を5つのキーワードで説明しています(河谷隆司 著・森田英一 編『Winning Together at Japanese Companies 日本企業で共に成功する30のポイント 』より)。オンボーディングで伝えるときの言い方の例と合わせて紹介します。
キーワード 日本の職場での意味 オンボーディングでの伝え方の例 自己規律 任された仕事は、期待された成果まで責任を持ってやり切る 「とりあえずやってみる」ではなく、ゴールを確かめてから始め、無理なら早めに相談する 時間を守る 期日や時間は、周りの仕事を守るための約束 遅れそうなときは、期日の前に知らせれば信頼は下がらない 当事者意識 与えられた仕事を「自分の仕事」と捉える 作業の目的と、その先で誰が使うのかを一緒に確認する 品質志向 ミスや欠陥のない、精度の高い仕事を目指す なぜその精度が要るのか(安全・顧客への影響)を具体例で示す 誠実 口で言うだけでなく、やるべきことを実行する 約束したことの進み具合を、自分から報告する
大事なのは、ルールを押し付けることではありません。「なぜそうするのか」を説明し、本人が納得して選べるようにすること です。理由が分かれば、インドネシア人エンジニアのように、自分の成長のために取り入れる人が出てきます。
逆に、理由を説明しないまま「日本ではこうだから」と求めると、反発か、表面だけの服従を生みます。
この5つのポイントを含め、日本企業で働くうえでの「暗黙のルール」を30のテーマにまとめたのが、当社が発行している『Winning Together at Japanese Companies 』です。ホウレンソウ、時間の感覚、会議での発言の仕方などを、「なぜ必要なのか」から「どう実行すればよいか」まで、イラストつきで解説しています。英語と日本語、タイ語と日本語のバイリンガル表記なので、外国人社員と日本人の上司が同じページを開いて話し合うことができます。
外国人社員が辞めていく職場の構造
「どうせ辞めるから、大事な仕事は任せられない」。そう考える管理職は少なくありません。しかし、その考え方こそが離職を生んでいることがあります。
任せない → 育たない → 辞める
多くの職場で、判断が要る仕事は日本人が担い、外国人社員は指示された作業をこなす、という分担ができています。すると外国人社員は、責任ある仕事を通じて経験を積む機会がありません。成長の実感が持てず、この会社での将来も描けない。だから辞める。辞めるから、ますます任せない。
「辞めるから任せない」が「任せないから辞める」を生む悪循環 です。
この構造は、海外の現地法人でも同じです。日本本社に権限が集まり、現地法人の決定権が弱いと、判断業務はどうしても日本人駐在員が抱えます。結果として現地社員が育たず、いつまでも駐在員に頼る状態が続きます。
ジェトロの2025年度調査 (アジア・オセアニア20か国・地域の日系企業が対象、2025年8〜9月実施)でも、人材の定着に向けた取り組みとして「福利厚生の改正」(55.7%)、「給与面での待遇の改善」(55.5%)に続き、「人事評価制度の見直し」(32.3%)、「社員研修制度の拡充」(29.7%)が挙がっています。待遇だけでなく、評価と育成の仕組みが問われていることが分かります。
残った人は「適応」している
任せてもらえない職場に残る人は、どんな状態にあるのでしょうか。当社では、能力を発揮する機会が限られた職場の社員は、反応によって大きく3つに分かれると見ています。
反発する人 :機会の少なさに不満を持ち、チャンスがあれば前向きに挑む
あきらめた人 :かつては反発していたが、変わらない職場に落胆し、静観している
適応した人 :指示された仕事をこなす働き方に慣れ、責任や負担の増える役割を避ける
外国人社員の場合、反発する人とあきらめた人は、転職という形で職場を去りやすい傾向があります。残るのは、適応した人が多くなります。「言われたことしかやらない」という嘆きは、職場がつくった適応の結果かもしれません。
これは、日本企業の女性活躍がなかなか進まなかった構造とよく似ています。長く勤めることを前提に男性を育て、そうでない人には判断業務を与えてこなかった。その仕組みが、外国人社員にも同じように働いています。
離職を防ぐオンボーディング:90日の受け入れ設計
では、受け入れ側は何をすればよいのでしょうか。入社から90日を4つの段階に分けて考えます。
入社前:期待とキャリアの道筋を伝える
担当する仕事の目的、期待する成果、評価の基準を文章で渡す
3年後、5年後にどんな役割を担える可能性があるか、道筋を示す
住まい、行政手続き、銀行口座など、生活の立ち上げで困りやすい点を確認する
最初の1か月:「なぜ」を説明し、相談相手をつくる
上司とは別に、日々の相談に乗る先輩(バディ)を一人決める
前の章の5つのポイントのような暗黙のルールを、理由と一緒に説明する
社内の略語や独特の言い回しを一覧にして渡す。日本語で伝えるときは、短い文で、あいまいな表現を避ける
「なぜ」を説明する材料として、入社時に『Winning Together』を渡し、1テーマずつ上司と一緒に読んで話し合う使い方もおすすめです。
2〜3か月目:小さくても「判断する仕事」を任せる
作業だけでなく、自分で決めてよい範囲をはっきりさせて任せる
週に一度、短い1on1(上司と部下の定期的な対話)で、困りごとと手応えを聞く
会議では、日本人だけで結論を出さず、意見を求める場をつくる
90日目:振り返りと次の目標
期待していた成果と実際を、本人と一緒に振り返る
次の半年で挑戦する、一段大きな役割を決める
受け入れ側(上司・バディ・同僚)も、うまくいったこと・いかなかったことを振り返る
オンボーディングは、外国人社員を「日本の職場に合わせる」ための手続きではありません。本人が力を出せる状態を、職場の側から整える取り組み です。
外国人社員の離職防止チェックリスト
自社の状態を確かめてみてください。当てはまらない項目が多いほど、離職のリスクが高い状態です。
□ 担当業務の目的と期待成果を、本人に文章で伝えている
□ 評価の基準が明確で、評価の理由を本人に説明している
□ 社内でのキャリアの道筋(昇格・異動の可能性)を示している
□ 判断を任せる仕事を、段階的に増やしている
□ 上司との定期的な1on1がある
□ 上司以外に、気軽に相談できる相手がいる
□ 会議や意思決定の場に、外国人社員が参加している
□ 受け入れる日本人社員が、異文化の中で働くことを学ぶ機会がある
□ 外国人社員の本音を、匿名で聞く仕組みがある
最後の項目は、特に見落とされがちです。外国人社員は、上司に直接不満を伝えないことが多いものです。辞めるときに初めて本音を知る、ということにならないよう、サーベイやインタビューで声を集める仕組みを持つことが大切です。
海外拠点でも同じことが起きている
ここまでの話は、日本国内の職場だけのものではありません。海外の現地法人でも、「現地社員が指示待ちで動かない」「育ったら辞める」という悩みは尽きません。根っこにあるのは、同じ「任せない構造」です。
国内で外国人社員を受け入れる経験は、海外拠点のマネジメントにも生きます。反対に、海外拠点で現地化に取り組んできた企業の知恵は、国内の受け入れにも応用できます。海外拠点の現地化については、関連記事で詳しく解説しています。
まとめ
日本で働く外国人は257万人を超え(2025年10月末)、2027年4月には育成就労制度が始まる。転籍が認められ、「選ばれる職場」かどうかが問われる
外国人社員に必要なのは「うまい管理」より、日本の働き方の「なぜ」を知る機会
自己規律・時間を守る・当事者意識・品質志向・誠実といった暗黙のルールは、理由とともに言葉にして伝える
「辞めるから任せない」が「任せないから辞める」を生む。判断する仕事を段階的に任せることが離職防止の核心
入社前から90日目までの受け入れ設計と、本音を聞く仕組みを持つ
よくある質問
Q1. 外国人社員のオンボーディングで、最初に取り組むべきことは何ですか?
担当業務の目的・期待成果・評価の基準を、文章で伝えることです。日本人社員なら空気で察する部分も、外国人社員には言葉にしないと伝わりません。あわせて、上司とは別に日常の相談相手(バディ)を決めると、立ち上がりが早くなります。
Q2. 給与を上げれば、外国人社員の離職は防げますか?
給与は大切ですが、それだけでは防ぎきれません。成長できる仕事を任されているか、評価に納得できるか、この会社での将来が描けるか。こうした点が欠けていると、より条件の良い会社へ移っていきます。待遇の見直しと、任せ方・評価・キャリアの見える化を一緒に進めることが必要です。
Q3. 育成就労制度が始まると、企業は何を準備すべきですか?
本人の意向による転籍が一定の条件で認められるため、「育てた人が他社へ移る」可能性を前提にした受け入れ体制が必要です。育成の計画、日本語学習の支援、相談しやすい職場づくりを、施行前から整えておくことをお勧めします。制度の詳細は、出入国在留管理庁などの最新情報を確認してください。
日本の働き方を伝える教材「Winning Together」
Winning Together at Japanese Companies 日本企業で共に成功する30のポイント
著:河谷隆司 編:森田英一 発行:beyond global Japan
日本企業の働き方は、世界の中でも独特です。本書は、その働き方の意味と背景を、日本人には日本語で、外国人社員には英語・タイ語できちんと説明できるように作ったガイドです。
書籍 :英語・日本語版と、タイ語・日本語版のバイリンガル表記。外国人社員と日本人の上司・同僚が同じページで話し合えます
eラーニング :外国人と働く日本人向け(日本語)と、日本企業で働く外国人向け(英語)の2種類。日本の働き方の意味と背景を、自分のペースで学べます
外国人社員の受け入れ時の配布、外国人の部下を持つ管理職の研修、職場全員での対話の教材として、多くの企業で好評をいただいています。
→ Winning Together の詳細・ご購入 → 書籍の無料サンプルをダウンロード → eラーニングの無料サンプル動画を見る
相談の案内
beyond global は、日本とシンガポール、タイで、外国人社員・現地社員が力を発揮できる組織づくりを支援してきました。社員の本音を可視化する組織総合診断(エンゲージメントサーベイ) 、外国人の部下を持つ管理職向けの研修 、公正で分かりやすい人事制度づくり を組み合わせてご提案します。
「外国人社員がなかなか定着しない」「受け入れる側の管理職を育てたい」という段階からご相談いただけます。無料個別面談 で、課題の整理と他社事例のご紹介を行います。
関連記事:
本文で使った数字の出典
beyond global group では、日本企業のグローバル化促進・企業体質の変革支援のために無料個別相談会を実施しております。
弊社のコンサルタントが、企業様のお悩みをお聞きした上で、課題の整理 / 他社事例のご紹介 / 予算の算出 / 解決策のご提案をいたします。
執筆者
beyond global group President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。