タイにおけるエンゲージメントサーベイの分析では、「長期的なキャリアパス」が離職率と強く相関する一方で、満足度が低い項目として上位に挙がることが少なくありません。
社員が「この会社でどのように成長していけるのか」を描けない状態は、将来への希望や期待を失わせ、やがて離職につながります。
本記事では、キャリアパスの不透明さが引き起こす問題と、それを解消するための構造的アプローチを整理します。
キャリア不満の根源は「透明性の欠如」
キャリアへの不安や不満は、社員の資質ではなく、制度設計や運用の“構造”に起因しているケースが大半です。
たとえば以下のような状況が続くと、社員は成長意欲を持ちにくくなります:
- 昇格基準が不明瞭で、上司の主観に左右されているように見える
- 現在の等級や評価が将来のキャリアにどう結びつくかが不明
- 社内にロールモデルや成功例が見当たらず、将来像が描けない
このような環境では、社員は自分の努力が将来につながるという“希望”を持ちづらくなり、「このままではいけない」と感じながらも、転職を選ぶ傾向が高まります。
「制度はある」が、「機能していない」状態
「等級制度はある」「キャリアマップも整備した」──こうした制度の整備自体が目的化し、運用が伴っていないケースは少なくありません。
- 昇格の要件は文書にあるが、現場では共有されていない
- 評価と昇格の関係性が曖昧で、納得感がない
- 面談でキャリアの話が出ず、上司が支援する体制になっていない
キャリア設計は人事部の専任業務ではなく、マネジャーと一体で支えるべきものです。社員一人ひとりが自分の成長ルートを理解できるような「運用の仕組み」が不可欠です。
「成長の道筋」を言語化する
社員が自らのキャリアに納得し、努力を継続できるためには、以下のような仕組みが有効です:
- 等級ごとの期待役割・スキル・視座の明文化
- 昇格に必要な評価水準や年数などの目安の明示
- 成長状況を共有・伴走する上司との定期的な対話機会
これにより、社員は“何ができれば次に進めるのか”が明確となり、目の前の仕事に意義を見出しやすくなります。
まとめ:キャリアの不透明さは、構造的問題である
- キャリアが「見えない」のではなく、「見せていない」ことが本質的な課題
- 制度を整えるだけでは不十分。社員への伝え方、関わり方が鍵
- 成長の道筋を可視化することで、離職要因を一つ減らすことができる
キャリア設計とは、制度そのものの整備ではなく、社員に「見える化」された成長の物語をどう描き、共有していくかのプロセスです。
働く理由を組織内に見出してもらうためにも、「見えるキャリア設計」は不可欠な経営インフラといえるでしょう。
【次ページ】第3回:昇給・ボーナスの“不満”はどこから生まれるのか
beyond global group では、日本企業のグローバル化促進・企業体質の変革支援のために無料個別相談会を実施しております。
弊社のコンサルタントが、企業様のお悩みをお聞きした上で、課題の整理 / 他社事例のご紹介 / 予算の算出 / 解決策のご提案をいたします。
執筆者
beyond global group
President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。