「管理職は罰ゲームだ」。そんな言葉を、職場でよく聞くようになりました。
仕事は増える。責任は重い。それなのに、給料はそれほど上がらない。そんな上司の姿を見て、若手は「自分は管理職になりたくない」と言います。
これは、一人ひとりの管理職の頑張りが足りないから起きているのではありません。仕事の割り振りと、職場の仕組みの問題です。仕組みの問題なら、変えることができます。
この記事では、管理職が罰ゲームのようになる原因を3つに分けて説明します。そのうえで、管理職本人と、会社(経営者・人事)が明日から始められる対策を紹介します。
この記事で分かること
管理職の「罰ゲーム化」とは何か。調査の数字で見る今の姿
管理職が罰ゲームになる3つの原因
管理職本人が明日からできる3つのこと
会社(経営者・人事)がやるべき3つのこと
管理職の「罰ゲーム化」とは
「罰ゲーム化」とは、管理職という役目が、引き受けた人にとって割に合わない、損な役回りになっている状態を指す言葉です。
この言葉を広めたのが、パーソル総合研究所の小林祐児さんの本『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法 』(集英社インターナショナル、2024年)です。多くのデータを使って、日本の管理職の負担の重さと、その原因を描いています。
管理職になりたい人は、6人に1人もいない
パーソル総合研究所は、全国の働く人1万人に、毎年同じ質問をしています。そのうち「今の会社で管理職になりたい」と答えた人は、2026年に15.7%でした。
2021年の24.0%から、5年で8ポイント以上下がりました。2018年にこの質問を始めてから、最も低い数字です。
出典:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」 (全国15〜69歳の働く人1万人、毎年2〜3月に調査)
なりたい人が減れば、管理職のなり手は限られます。少ない管理職に仕事が集まり、その姿を見て、さらに「なりたくない」人が増える。この悪い循環を止めることが、対策の出発点です。
こんなサインが出ていたら要注意
自分の職場で罰ゲーム化が進んでいないか、次の点で確かめてみてください。
管理職が、自分の担当業務を夜や休日に片づけている
部下と話すのは、仕事の確認や指示のときだけになっている
会議や報告書が増えたのに、やめた仕事は思い出せない
管理職への昇進を打診すると、断られたり、迷われたりする
管理職が「相談できる相手がいない」と感じている
2つ以上当てはまるなら、管理職個人の問題ではなく、職場の仕組みを見直すときです。
管理職が罰ゲームになる3つの原因
原因1 プレイヤーの仕事を手放せない
産業能率大学総合研究所とHR総研が、2023年に企業の人事担当者331名に聞いた調査があります。課長がプレイヤーの仕事をせず、管理の仕事に専念できている企業は、わずか2.1%でした。残りの98%では、課長が何らかの形でプレイヤーを兼ねています(「ミドルマネジャーの人事実態調査2023 」2023年9月発表)。
自分の売上や担当業務を持ちながら、部下も見る。どちらも中途半端になりやすく、足りない分を残業で埋める。これが、多くの課長の毎日です。
原因2 期待される仕事が、足されるばかり
同じ調査で、会社が課長に「強化してほしい力」の1位は「部下を育成する力」(66.5%)でした。
会社は課長に育成を求めています。しかし、プレイヤーの仕事を抱えたままでは、その時間は取れません。さらに、部下の働く時間の管理、ハラスメントへの配慮、部下の悩みへの対応など、管理職に任される仕事は年々増えています。
役割は足されるのに、減らす話はされない。ここに無理が生まれます。
原因3 一人で抱え込む
管理職は、上からは成果を、下からは配慮を求められます。その間で、悩みを打ち明ける相手がいません。
上司には弱みを見せにくい。部下には相談できない。同じ立場の管理職とは、忙しくて話す機会がない。こうして、問題が一人の中にたまっていきます。
管理職本人が明日からできる3つのこと
会社の制度が変わるのを待たなくても、管理職自身ができることがあります。
1. 自分の仕事を3つに仕分ける
まず、1週間の仕事をすべて書き出します。そのうえで、次の3つに分けます。
自分にしかできない仕事
自分でも部下でもできる仕事
本来は部下がやるべき仕事
これは、鳥原隆志さんの『「仕事を任せる」インバスケット法』(ぱる出版、2013年)が勧めている分け方です。書き出してみると、部下がやるべき仕事を自分で抱えていることに気づきます。そもそも誰もやらなくてよい仕事が見つかることもあります。
2. 任せるときは「目的・期限・範囲」を伝える
任せたのに、うまくいかない。その原因の多くは、任せ方にあります。同じ本では、任せるときに方向性・期限・範囲などをはっきり伝えることを勧めています。
目的:何のための仕事か。「好きにやって」では、任せたことになりません
期限:「なるべく早く」ではなく、日付で伝える
範囲:どこまで本人が決めてよいか。どの時点で報告してほしいか
そして、「結果の責任は私が持つ」と伝えます。この一言で、部下は安心して動けるようになります。
3. 部下と話す時間を、先に予定に入れる
部下を育てる時間は、空いた時間にやろうとしても、まず取れません。週に1回、15分でよいので、部下一人ひとりと話す時間を先に予定に入れてしまいます。
話す中身は、仕事の進み具合よりも、困っていること、やってみたいことです。たとえば、次のように聞きます。
最近、仕事で困っていることはある?
今の仕事で、もっとやってみたいことは?
私に手伝えることはある?
管理職は聞き役に回り、答えを急いで出さないことがコツです。部下の考えが分かると、任せられる仕事が増えます。任せる仕事が増えれば、管理職に時間が戻ってきます。
会社(経営者・人事)がやるべき3つのこと
管理職の頑張りだけに頼ると、同じことがまた起きます。小林さんの本でも、管理職を鍛えるだけの「筋トレ発想」を罠と呼んでいます。そして、部下の側から支える、仕事を分け合う、人のつながりをつくる、キャリアを設計する、という4つの方向から直し方を示しています。
ここでは、会社がすぐに取りかかれることを3つ紹介します。
1. 管理職の仕事を棚卸しし、減らす
管理職に新しい役割を足すときは、同時に何かをやめます。会議、報告書、承認の手続きは、見直せることが多い仕事です。
管理職に1週間の仕事を書き出してもらい、会社として「やめる仕事」を決めます。プレイヤーの仕事を誰に移すかも、本人任せにせず、その上の上司が一緒に決めます。
2. 管理職同士が相談できる場をつくる
月に1回、同じ立場の管理職が集まり、困っていることを話す場をつくります。正しい答えを教える場ではありません。1人10分ほどで「いま困っていること」を話し、ほかの人は質問とアイデアを返す。それだけで十分です。
「悩んでいるのは自分だけではなかった」と分かるだけで、気持ちは軽くなります。ほかの部署のやり方を聞くと、自分の職場で試せることも見つかります。
3. 部下の側も育てる
管理職が任せようとしても、部下が受け止められなければ、仕事は管理職に戻ってきます。部下にも、報告や相談の仕方、任された仕事の進め方を身につけてもらいます。
研修を管理職だけで終わらせず、部下の層の研修とつなげて考えることが大切です。
管理職が変わると、職場が変わる
私は以前、新入社員研修や若手研修を手がける会社を、10期にわたって経営していました。その中で気づいたのが、「若手向けの研修だけだと、会社は変わらない」ということでした。
若手が育つかどうかは、毎日一緒に働く上司と、その職場で大きく変わります。管理職は、職場の空気を最も左右する人です。その管理職が疲れ切っていては、部下も、職場も前に進めません。
だから、罰ゲーム化の対策は、管理職を楽にするためだけのものではありません。職場全体を元気にするための投資です。社員が自分から力を出す職場をどうつくるかは、「従業員エンゲージメントを高めるには 」でも詳しく書いています。
では、研修をどう設計すれば、管理職は本当に変わるのでしょうか。記事の最後で、私たちの考え方とプログラムをご紹介します。
まとめ
管理職の「罰ゲーム化」とは、管理職が割に合わない役回りになっている状態のこと
「今の会社で管理職になりたい」人は15.7%。2021年から5年で8ポイント以上下がった(パーソル総合研究所、2026年)
原因は、プレイヤーの仕事を手放せない(課長の98%が兼務)、期待される仕事が足されるばかり、一人で抱え込む、の3つ
管理職本人は、仕事を3つに仕分ける、目的・期限・範囲を伝えて任せる、部下と話す時間を先に予定に入れる
会社は、管理職の仕事を減らす、相談できる場をつくる、部下の側も育てる
よくある質問
管理職の給料を上げれば、罰ゲーム化は解決しますか?
給料は大切ですが、それだけでは解決しません。仕事の量が多すぎることや、一人で抱え込むことは、給料を上げても変わらないからです。仕事を減らす、任せる、相談できる場をつくる、といった仕組みの見直しとセットで考えてください。
プレイングマネジャーは、やめるべきですか?
課長の98%がプレイヤーを兼ねている今、すぐにゼロにするのは現実的ではありません。まずは、管理職がプレイヤーの仕事に使う時間の目安を決め、その時間を超える分を少しずつ部下に移していくことをおすすめします。
管理職研修だけで、罰ゲーム化は防げますか?
研修だけでは防げません。研修で任せ方や対話の仕方を学んでも、職場に戻って仕事が減っていなければ、使う時間がないからです。研修と、仕事の棚卸し、管理職同士で相談できる場づくりを組み合わせることで、効果が出やすくなります。
「足し算」から「引き算」のマネジメントへ
この記事でお伝えした対策には、共通点があります。管理職に仕事を「足す」のではなく、「引く」ことです。仕事を減らし、任せ、余白をつくる。その余白で、部下を育て、チームで成果を出すという、管理職の本来の仕事に戻っていきます。
ただ、頭では分かっていても、続けるのは簡単ではありません。管理職研修が現場で定着しないのには、次の3つの原因があります。
学んで終わり :現場で試す仕掛けがなく、使わない知識は消えていく
1回で完結 :学びが日常の仕事に組み込まれず、積み上がらない
検証がない :変わったかどうかを確かめられず、経営者が効果を実感できない
この3つに「設計」で答えるのが、beyond global のマネジャー・リブート・プログラム です。研修と現場での実践を12か月かけて往復し、360度サーベイなどで周囲から見た変化を数字で確かめます。経営者が節目で変化を確かめる場も、あらかじめ組み込んでいます。対象は、新任〜中堅の課長・マネジャーです。
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beyond global は、日本・シンガポール・タイを拠点に、組織開発と管理職の育成を支援しています。
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執筆者
beyond global group President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。