日本で、熱意をもって仕事に取り組んでいる社員は8%です。米国の調査会社Gallupが世界の働く人を対象に毎年行う調査の結果で、東アジア平均の18%、世界平均の20%を大きく下回ります(Gallup「State of the Global Workplace 2026」、2025年調査)。
この数字を見て、「日本人はやる気がない」と受け取るのは早計です。日本の社員は責任感が強く、最後までやり切る力を持っています。足りないのは本人のやる気ではなく、その力を会社の目指す方向につなげる関係です。それが「従業員エンゲージメント」です。
この記事で分かること
従業員エンゲージメントとは何か、なぜ日本は低いのか
ロイヤリティ・コミットメント・モチベーション・従業員満足度との違い
エンゲージメントを高める3つの打ち手
エンゲージメントと業績の関係(調査の数字)
従業員エンゲージメントとは何か
従業員エンゲージメントとは、社員が会社の目指す姿に向けて、自分から進んで力を出そうとする意欲のことです。
言い換えると、会社が向かう方向と、自分がやりたいことの向きがそろっている状態です。会社のビジョンや目標に共感し、自分の人生の中でもそれを実現したいと思っている。やらされているのでも、仕方なくやっているのでもなく、心からやりたいと思っている。ここが大事な点です。
エンゲージメントはもともと婚約を指す言葉でもあります。会社と社員が、互いに選び合った良い関係にある状態と考えると、イメージしやすいかもしれません。
日本のエンゲージメントの現状
Gallupの2026年版の調査で、日本の社員は次のように分かれています。
区分 日本 意味 熱意をもって働いている 8% 仕事に熱意があり、職場に積極的に関わっている 熱意がない 71% 言われたことはするが、心は仕事から離れている 強い不満を持っている 21% 職場に不満があり、周りにも悪い影響を与えうる
出典:Gallup「State of the Global Workplace 2026」 日本の国別データ(2025年1〜12月調査)
2017年に同じ調査で日本が6%と報じられてから、ほとんど変わっていません。
なぜ日本は低いのか
理由は1つではありませんが、現場でよく見るのは次のような状態です。
1つの会社で長く働くことが前提で、嫌でも辞めずに「こんなもんだ」と諦めてしまう
ルールが細かく、上下関係や遠慮から、本音で話しにくい
目の前の仕事に追われ、自分の仕事が会社の目指す姿にどうつながっているか見えない
業務量が多く、余裕がない
もともと日本の社員は、会社の目標に向けて自分から力を出す意欲が高かったはずです。それが、目の前の仕事だけを見る短期・部分の視点に追い込まれ、少しずつ失われてきました。
いま、エンゲージメントが経営の課題になっている
2023年3月期から、上場企業などは有価証券報告書に人材育成の方針や社内環境整備の方針を書くことが求められています(人的資本の情報開示)。経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」(2022年)も、人材戦略の共通要素の1つに従業員エンゲージメントを挙げています。
エンゲージメントは、人事部の取り組みではなく、経営が投資家や社員に説明する指標になりつつあります。
エンゲージメントのよくある4つの誤解
エンゲージメントは、これまで使われてきた言葉と混同されがちです。違いを整理すると、何を高めればよいかが見えてきます。
よく混同される言葉 その意味 エンゲージメントとの違い ロイヤリティ(忠誠心) 会社に尽くし、裏切らないこと 会社が上、社員が下の関係。自分の意志で選んでいるとは限らない コミットメント 約束した成果に責任を持つこと 相手に求め、選択を迫るもの。エンゲージメントは自然にわき上がるもの モチベーション(やる気) その人の中にある意欲 個人の中の状態。エンゲージメントは会社と社員の関係 従業員満足度 待遇や環境への満足 満足していても、会社の目標に向けて力を出すとは限らない
誤解1:忠誠心が高ければよい
高度成長期の日本では、会社に尽くし、辞めず、逃げないことがたたえられました。その時代には、忠誠心の高い社員が多いことが業績を支えていました。
いまは違います。忠誠心は高くても、自分で考えて動けず、会社にぶら下がってしまう社員もいます。働き方も勤め先も選べる時代には、自分の意志で「この会社で働く」と決め、会社と共に自分の未来を描ける人こそ、最も力強く業績に貢献します。
誤解2:コミットメントを求めれば高まる
コミットメントは、「やるのか、やらないのか」と相手に迫るものです。目の前の仕事に強くコミットしていても、この会社で長く働く意味を見いだせず、将来に不安を抱えている社員は少なくありません。エンゲージメントは、求めて引き出すものではなく、関係の中から自然に生まれるものです。
誤解3:一人ひとりのやる気を上げればよい
モチベーションは、その人の中に生まれるものです。上げるには、一人ひとりの「やる気のスイッチ」を探して押していく必要があります。
エンゲージメントは、会社と社員の関係を表す言葉です。会社と社員が同じ未来を描き、語り合う関係ができていれば、社員は無理なく、長く、自分から動き続けられます。
誤解4:従業員満足度が上がれば業績も上がる
社員の立場で考えることは大切です。急に解雇されない、生活が脅かされないという安心は、働く意欲や集中力を支えます。
ただし、給与を上げる、福利厚生を手厚くするといった「ごほうび」を増やしても、それだけで業績が上がるわけではありません。居心地が良すぎると、ぬるま湯の空気が広がり、かえって組織全体の力が落ちることもあります。
エンゲージメントを高める3つの打ち手
1. 会社のビジョンと個人のビジョンを語り合う
まず、会社の使命(ミッション)、目指す姿(ビジョン)、大事にする価値観(バリュー)を明確にします。そのうえで、社員一人ひとりが、それを自分の言葉で語る場をつくります。
エンゲージメントの高い会社は、経営者がビジョンを語るだけでなく、社員一人ひとりも自分のビジョンを語れる会社です。会社のビジョンと社員のビジョンをすり合わせていく過程そのものが、エンゲージメントを育てます。
2. エンゲージメントサーベイで見える化し、職場で対話する
エンゲージメントは、ふだんの仕事の中では見えにくいものです。そこで、社員アンケート(エンゲージメントサーベイ)で定期的に測ります。
大事なのは、測った後です。
結果を必ず社員に公開する。悪い結果も隠さない
経営陣は、結果とあわせて改善の行動計画を全社員に示す
会社全体だけでなく、部署ごとの結果もまとめる
部署の結果を部署のメンバーで共有し、自分たちで話し合う
部署での話し合いでは、次の3つを問いかけます。
自分は、この部署をどうしていきたいか(理想の職場は何か)
部署のリーダーとメンバーは、それぞれ何を考えているか
どうすれば、もっと良い職場になるか
メンバー全員で職場を良くしていく取り組みそのものが、エンゲージメントを高めます。サーベイを「測って終わり」にせず、顔の見える相手と改善を回し続けることが肝心です。
3. 評価を透明にし、キャリアをすり合わせる
日本の会社は、欧米の会社に比べて人事制度の透明性が低いと言われてきました。評価の中身を見せないほうが社員を統制しやすい、という会社側の事情があったからです。
しかし、頑張って出した成果が公平に評価されることは、エンゲージメントの土台です。自分の頑張りが会社の目指す姿に貢献し、それが自分にも返ってくる。この循環が見えるからこそ、社員は会社と自分の未来を重ねて描けます。
海外の拠点では、なおさらです。給与や評価を社員同士で見せ合うのが当たり前の国も多く、会社が伝えていなくても、社員はお互いの額をよく知っています。日本企業で働く外国籍の社員が最も違和感を覚えるのが、この不透明さです。
評価の仕組みを示したうえで、社員一人ひとりの人生のビジョンやキャリアの希望を聞き、会社の方向とすり合わせる時間をつくりましょう。
エンゲージメントは業績につながるのか
ここまでの打ち手は、どれも手間と時間がかかります。それでも取り組む価値があることは、調査で示されています。
Gallupは、347の組織、約18万の職場単位、約335万人のデータを統合して分析しました。エンゲージメントが上位4分の1の職場は、下位4分の1の職場に比べて、次のような差がありました(Gallup「Q12 Meta-Analysis」第11版、2024年)。
指標 上位の職場と下位の職場の差(中央値) 利益率 23%高い 生産性(売上) 18%高い 欠勤 78%少ない 品質不良 32%少ない 離職(離職率の高い組織の場合) 21%少ない
エンゲージメントの高い職場で起きること
数字の裏では、職場の様子が変わります。
理念に共感しているので、職場に活気がある
会社を信頼し、「一緒にやろう」という感覚で同僚と協力し合う
問題が起きても、一人ひとりが「自分に何ができるか」を考え、自分たちで直す
自分の仕事だけでなく、会社全体を見て考えるので、視野が広い
日本ほど、伸びしろのある国はない
私は、日本の会社ほどエンゲージメントが伸びる余地を持つ組織はないと考えています。
エンゲージメントという言葉はなじみが薄くても、それに近いことは、もともと日本の強みでした。相手と自分の立場をすり合わせ、互いに良い関係を築くこと。誰かの役に立つことに喜びを感じること。高いチームワークと、仕事への美学。日本の文化には、エンゲージメントを育てる要素が多くあります。
8%という数字は、日本人の能力の低さではなく、その力が組織の中で眠っていることを示しています。日本の会社が本気でエンゲージメントに取り組めば、業績へのインパクトは他の国の比ではないはずです。
まとめ
従業員エンゲージメントは、会社の目指す姿に向けて、社員が自分から力を出そうとする意欲
日本で熱意をもって働く社員は8%で、世界平均20%を大きく下回る(Gallup、2026年)
忠誠心・コミットメント・やる気・満足度とは別物。会社と社員の関係を表す言葉
高める打ち手は、ビジョンを語り合う、サーベイで見える化して職場で対話する、評価を透明にしキャリアをすり合わせる、の3つ
エンゲージメントの高い職場は、利益率・生産性が高く、欠勤や離職が少ない
よくある質問
Q1. 従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイは、何が違いますか?
従業員満足度調査は、待遇や職場環境に満足しているかを測ります。エンゲージメントサーベイは、会社の目指す姿に共感し、自分から力を出そうとしているかを測ります。満足度が高くても、エンゲージメントが低い職場はあります。業績とのつながりを見たいなら、エンゲージメントを測ることをおすすめします。
Q2. エンゲージメントサーベイは、どのくらいの頻度で行えばよいですか?
年1回の本格的な調査に加えて、変化を早くつかむために短い質問を数か月ごとに行う会社が増えています。ただし、頻度を上げるほど、結果を職場に返し、対話して改善する手間も増えます。改善を回しきれる頻度にとどめることが大切です。
Q3. サーベイの結果が悪かった場合も、社員に公開すべきですか?
公開すべきです。結果を隠すと、「答えても何も変わらない」と受け取られ、次の回から本音が出なくなります。悪い結果ほど、経営陣が改善の行動計画とあわせて示すことで、社員の信頼につながります。
相談の案内
beyond global は、社員の声を集め、経営者と対話し、組織を変えていく組織開発をご支援しています。
入口となるのが、組織の状態を測る「組織総合診断(エンゲージメントサーベイ)」です。組織の人間ドックのように、どこに問題があるかを数字で確かめ、その結果をもとに経営陣と職場で対話し、評価制度や管理職の育成まで含めた打ち手を一緒に考えます。
「エンゲージメントサーベイを取っているが、結果を活かしきれていない」「社員の本音が見えない」。そんなお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。
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執筆者
beyond global group President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。