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海外派遣研修を企画する際の重要ポイント 研修コーディネーターが考えるべき、海外派遣研修を成功させる観点

  • 2023.05.09
海外派遣研修を企画する際の重要ポイント

はじめに
〜海外事業を成長させられるグローバル人材は、十分にいますか?

これから「海外事業を伸ばしていく」という中長期の事業戦略を描く企業が増える一方で、「海外事業を任せられる人材がいない」という声をよく聞きます。ある調査によると、日本企業の70%以上がグローバルで活躍できる人材の質・量の両方が不足しており、そのためグローバルにおける企業競争力への影響が懸念されていると言います。実際にグローバル人材の育成の仕組みを体系的に整備されている日本企業は、わずか20%程度とも言われています。

今後、海外事業を伸ばしていくためには、グローバル人材の育成を体系的に行うことが必要です。スイスのビジネススクールIMDが世界63カ国の人材競争力を調査した「IMD WORLD TALENT RANKING 2022」では、「人材確保と維持の優先度」の項目において日本は、第4位と高い評価を受けていますが、「上級管理職の国際経験」の項目においては、最下位の63位という結果が出ており、グローバル人材育成・経営人材育成の課題が指摘されています。

出典:IMD WORLD TALENT RANKING 2022

この問題を解決するためには、経営層と人事部門が連携し、グローバル人材育成・経営人材育成の取り組みを推進する、企業全体での意識改革が求められます。また、今後の日本の人口減少に伴う市場の縮小を考えると、大企業だけでなく、中小企業もグローバル人材の採用と育成に取り組む必要があります。今後ますます、日本企業はグローバル人材の育成を体系的に行い、グローバルにおける競争力を維持・向上させることが重要となるでしょう。

日本人は、そもそも海外や異文化の環境において成果を発揮する体験が少なく、グローバル人材育成のボトルネックとしてよく挙げられています。本記事では、グローバル人材育成体系を整備する中で、ボトルネックになりやすい海外や異文化環境の経験を密度濃く行うための海外派遣研修について、整理していきたいと思います。

海外派遣研修の目的と種類

企業が行う海外派遣研修の主な目的は、グローバルビジネスを頭や理論で学ぶだけではなく、グローバルな知見、語学力、外国人とのコミュニケーション・マネジメントなどを、リアルな場で体験し、身につけることを通して、グローバルな人材を育成、またグローバル人材としての資質を見極め、その後の配属計画に活かすことです。さらに、海外派遣研修は世界のトレンドや最先端の技術を知ったり、海外の現状や日本との環境の違いを知る機会にもなります。

海外派遣研修は、下記のように様々な種類があり、企業のニーズに応じて選択することが重要です。実際に海外へ派遣する研修が多いですが、一部ではオンラインでの実施や、海外派遣とオンラインを組み合わせたハイブリッドでの実施もあります。

  • 海外赴任
  • 海外現地法人へのトレーニー派遣
  • 海外視察
  • 海外フィールドワーク型研修(コロナ禍では、オンラインでの実施も)
  • 海外現地企業でのインターンシップ(自社の子会社とは異なる会社へ)
  • 語学学校での留学
  • 海外ボランティアへの参加
  • MBA等のビジネススクールへの海外留学
  • エグゼクティブMBA等の短期集中講座への参加
  • 海外視察・国際見本市への参加

海外現地法人がある会社では、トレーニーとして1年から2年ほど派遣することも有効ですが、国によってはビザや規制の関係で、トレーニーがしっかりとした業務を行えないケースもあります。また海外現地法人では、現地ローカル社員から見ると「本社から来た人」として見られて、お客様扱いを受けたり、現地法人内でも多くの駐在員がいるため、居心地の良い日本人同士だけで集まってしまい、結果として海外での密度の濃い「アウェイ体験」ができてないという問題点が指摘されています。さらには、本社との連携業務に追われてしまい、現地人材との共同プロジェクトに深く関われず、日本にいたときの業務と全く変わらないことを行っているトレーニーも非常に多いです。

海外現地法人側から見ても、トレーニーとして若手を現地法人に配属されても、スキルやマインドセットが不足していることから、彼らに任せられる業務が少ないという声が実情としてあります。

そのため、海外事業を成長させられるようなグローバル人材を育成するためには、トレーニーの育成プランだけでは不十分であり、より異質な環境において成果発揮を求められる体験をさせる必要があります。そこで多くの企業で採用している研修が、実践型グローバル研修「海外フィールドワーク型研修(現地派遣型)」です。本記事では、実践型グローバル研修「海外フィールドワーク型研修(現地派遣型)」に焦点を当てて、説明をします。

海外派遣研修を企画するときの論点

海外派遣研修を考える際に論点となるのは、研修の費用が高くなることと、研修によって期待する効果が十分に現れるのかどうかです。また、研修後のフォローアップが不十分でないと、研修で得た経験・知識やスキルが十分に活用されないことがあったり、転職を促進してしまうケースもあります。

海外派遣研修を企画する際の主な論点としては下記が挙げられます。

  1. 費用:
    企業が海外研修を実施する際、研修費用が高額になることが課題のひとつです。交通費や宿泊費、研修プログラムの費用など、多くの経費がかかります。ですので、実際の海外派遣とオンラインをうまく組み合わせたハイブリッド型も検討するとよいでしょう。
  2. 海外派遣研修の効果:
    研修の設計によっては、十分な効果が現れないことが懸念されます。長期間で海外に行ったとしても、日本人だけで固まってしまったり、中弛みしてしまっては十分な効果が得られません。たとえ、短期間であっても、語学力やグローバルな知見を身につけるような効果的な設計・デザインが求められます。
  3. 海外派遣研修後のフォローアップ:
    研修で得た知識やスキルを十分に活用するためには、研修後のフォローアップが重要です。しかし、フォローアップが不十分であると、研修で得た知識やスキルが十分に活用されず、研修の効果が薄れたり、逆効果になることがあります。
  4. 社員の適性と選定:
    社員を海外研修に参加させる際、その適性や選定が難しい場合があります。全ての社員が海外で活躍できるわけではなく、適切な人材を選定することが重要です。

これらの課題に対処するためには、企業は研修プログラムの設計や実施方法を慎重に検討し、研修後のフォローアップや適切な人材の選定に努めることが求められます。

海外派遣研修は、どのような時期に行くのが効果的か

海外派遣研修の効果を最大限に発揮させるためには、研修を行う時期も重要です。ここでは、海外派遣研修が効果的な時期について解説します。

社員のキャリアステージに応じたタイミング

海外派遣研修は、社員のキャリアステージに応じたタイミングで行うことが効果的です。

例えば、新入社員に対して、入社直後の新入社員研修の時期に海外派遣研修を行うことで、彼らが早期にグローバルな視点を持つことができます。この時期は、実務をまだ抱えていないので、まとまった期間、海外に行きやすいというメリットがあります。一方、中堅社員に対しては、彼らが、ある程度日本での仕事ができるようになってきた、次のキャリアステージである、キャリアの転換期で研修を行うことによって、新たなスキルや知識を身につけたり、自社でのキャリアの広がりを考える機会を提供できます。また、場合によっては、経営者候補人材の育成の一環として、海外体験をさせておくというケースもあります。

企業のビジネスサイクルに合わせたタイミング

海外派遣研修は、ビジネスサイクルに合わせたタイミングで行うことも効果的です。例えば、新規事業展開や海外進出が事業上、予定されている場合、その前段階で関連部署の社員に海外フィールドワーク型研修を実施することで、市場調査を効率的に行ったり、事業計画を練ることができ、育成と、海外事業成功の確率を高めることとの一石二鳥を狙うこともできます。

研修内容に応じたタイミング

研修内容によっては、特定の時期に行うことが効果的な場合もあります。例えば、最先端技術や業界トレンドを学ぶ研修の場合、毎年アメリカのラスベガスで開催されているハイテク技術の見本市「CES」などの業界の最先端イベントや展示会が開催されるタイミングで海外フィールドワーク型研修を行い、フィールドワークと、その視察と組み合わせることで、最新の情報や知識を効果的に得ることができます。

海外派遣研修の目的を総合的に考慮し、最適な時期を選択する

これらのポイントを考慮することで、海外派遣研修が効果的に行われます。時期に関しては、企業の業務スケジュールや社員の負担を考慮し、研修が最大限の効果を発揮できるタイミングを選ぶことが重要です。また、海外の状況や季節、派遣先団体との協力体制も影響するため、これらの要素を総合的に考慮して最適な時期を選ぶことが望ましいでしょう。

海外派遣研修への参加者の選定基準

企業が行う海外研修に参加する社員を選定する際には、参加者の語学力やキャリア、さらに企業が期待する研修の成果を考慮することが重要です。以下に、企業向け海外派遣研修への参加者の選定基準についてのポイントを挙げます。

  1. 語学力:
    参加者が海外研修でコミュニケーションを円滑に行えるよう、一定の語学力が求められます。参加者の語学力を測るために、TOEICなどの語学試験スコアや、VERSANTやPROGOS等の英語スピーキングテストのスコアを参考にするとよいでしょう。
  2. キャリア:
    企業が期待される研修の成果に応じて、参加者のキャリアやスキルを評価することが重要です。例えば、海外でのビジネススキルやマネジメント能力を身につけることを目的とする研修であれば、将来的に海外事業に携わる可能性のある社員を選定することが望ましいでしょうし、若手に対してグローバルでのキャリア形成に興味を持ってもらう事であれば、多少の語学力があるだけでも良いケースもあります。
  3. 企業の期待する成果を出せる能力:
    企業が研修によって得たい成果を明確にし、それに適した社員を選定することが重要です。その成果を出せる能力を持っている人を選定しましょう。

海外派遣研修を企画する際の重要ポイント

派遣先の選定と準備

企業が海外派遣研修を実施する際には、派遣国や派遣先の選定、および研修の準備が重要なポイントとなります。以下に、派遣国と派遣先の選定、および研修の準備についてのポイントを挙げます。

派遣国の選定:

派遣国を選定する際には、研修目的や会社の海外戦略に応じた国を選ぶことが重要です。例えば、新しい市場でのビジネス展開を目指す企業は、その市場が存在する国や地域を選ぶと良いでしょう。
また、海外赴任準備を目的とした研修では、主要な取引先や海外拠点がある国を選ぶことが考えられます。英語力向上を目指す場合は英語圏の国、特定の業界や技術を学びたい場合はその分野で発展している国を選ぶと良いでしょう。

グローバルマインドを高めたい、海外体験をさせたいという時には、参加者のレベル感や、研修終了時にどのような気持ちになってもらいたいかというデザインによって、派遣国を選択することも考えられます。

例えば、過去弊社で担当した、英語が苦手な若手向けの海外派遣研修では、アメリカやシンガポールで実施し、海外での仕事の難しさや、現地の人たちの優秀さに圧倒されていました。ベトナムなどの新興国で親日の国に行くと、英語が苦手でグローバルに興味がなかった人たちでも、海外に興味を持つ人が多かったです。また、インドで実施すると、最初は自信がなかった参加者が、インドでサバイブできた体験によって、海外でもなんとかなるという自信を持ち、海外のどこでも行けるような感覚になる人が多かった経験があります。このように、どのようなマインドチェンジをしたいかということによって、派遣する国を決めるのも一つの手です。

派遣先と研修内容の設計:

派遣先として、現地の企業に期間限定の社員という位置付けで、勤務する形もありますが、短期だと、適切な業務がなかなか見つけられず、ただの作業者としての勤務体験だけになってしまい、あまり密度の濃い体験ができないリスクがあります。これは、海外現地法人にトレーニーとして派遣にも当てはまることがあるので、注意が必要です。特にトレーニーとして派遣される場合で、上司が日本人の場合は、日本人とだけの仕事になってしまいがちで、現地社員とのコミュニケーションが少なくなってしまい、日本で仕事しているのとあまり違いがなく、一定期間、海外に暮らしたという体験しか残らないケースもあるので、注意が必要です。

短期間で密度の濃い海外での仕事体験をしてもらうためには、期間限定のプロジェクトとして「短期間で明確な成果を求めること」「外国人とのチームで活動すること」がキーポイントです。

また、このような期間限定プロジェクトをデザインする時に、「どの組織のどのようなテーマ・ミッションを扱うか」「どのような外国人と共にチームを組むか」「最終的に、誰に対して、成果を出すものか」も考える必要があります。

そのデザインは、現在の参加者のグローバル人材としての実力レベルと、この研修を通じて、どの要素を育成するのか、どのレベルのグローバル人材を目指すのかによって、異なってきます。

グローバル人材に求められるスキルとしては下記のようなことが一般的に求められると言われています。

  • 語学力
  • コミュニケーション力
  • 主体性・積極性
  • チャレンジ精神
  • 柔軟性
  • 責任感
  • 異文化理解・適応力

海外で異文化チームで確実に成果を出すためには、上記の他に、

  • 課題発見・解決力
  • チームワーク力
  • リーダーシップ
  • 異文化チームマネジメント
  • 成果に向けてやり切る姿勢(タフさ)

が求められます。

また海外で経営者として活躍する際には、

  • 海外経営戦略構築力
  • ビジョン構築力・発信力
  • 経営数字管理能力

なども重要になってきます。

今回の海外派遣研修の参加者が、現状、どのようなスキルを持っている人材なのか、そして、その参加者を今回の研修に参加することで、どのようなマインドセットや、スキルセットを身につけてほしいのかを元に研修を設計・デザインすることが重要です。

一般的に、日本人は外国人と共同のチームでの体験をしたことがない人がほとんどです。ただ日本人の指示に従って、外国人のメンバーをマネジメントするという体験だけでなく、外国人とタッグを組んで、お互いの強みを活かして、多様性を力に変えて、日本人だけでも、外国人だけでもできなかったような成果を、この多様性ある異文化チームだからこそ生み出す、Co-Creation(共創造)の体験ができると、モノの見方、外国人との向き合い方も変わるでしょう。

このようなデザインをするためには、「現地のリアルな課題を扱うこと」「その課題の当事者を巻き込んだチームを編成すること」で、外国人と日本人の双方が本気で、研修のテーマ・ミッションに向き合うようになります。

扱うテーマ・ミッションとしては、ビジネス課題だけでなく、現地の社会課題に、その課題の当事者を巻き込むことで、日本人・外国人双方の本気度を高めるというやり方もあります。

また、ビジネス課題の場合は、設定したテーマ・ミッションの領域の知識・経験が、研修内で創出する成果に影響をあたることがありますが、社会課題の場合は、参加者それぞれが、新しい領域でのチャレンジになることが多いため、グローバル人材としての適性の見極めに良いと考えられています。

派遣中のフォローと評価

フォローの方法

海外派遣研修中の社員へのフォローは重要です。適切なサポートを提供することで、参加者が新しい環境での学びや成長をより効果的に行うことができます。フォロー方法としては、振り返りセッションや、1対1でのメンタリングや、コーチング、現地との情報共有、参加者同士の交流や、学びの共有などがあります。

評価方法

海外派遣研修の評価は、研修生の成長や学びの効果を把握し、今後の研修計画に活かすために重要です。評価方法としては、研修前後でのスキルや知識の変化を評価する方法や、派遣先からのフィードバックを参考にする方法などがあります。また、研修後には研修生自身による報告や発表を行い、研修内容の振り返りや学んだことの共有を促すことも効果的です。

企業が海外派遣研修で社員を派遣している間のフォローと評価は、参加者の成長や学びの効果を最大限に引き出すために重要です。適切なフォローと評価方法を用いることで、参加者は海外での経験をより有意義なものにし、企業はグローバルな人材育成を成功させることができるでしょう。

派遣後の配置・フォローアップ

短期間での海外派遣研修では、帰任後の配置について、そこまで気にする必要はありませんが、ある程度の期間の海外派遣研修や海外赴任を終えた社員が日本に帰国した際の配置は、その社員が海外で学んだ経験やスキルを活かすことができるように慎重に検討する必要があります。そうしなければ、海外で、ある程度、裁量を持って仕事をしていた場合、日本に戻り、裁量の狭い仕事につくと、自分の成長が評価されていない気になったり、現在の業務に物足りなさを感じることが多くなり、転職を考え始めることにつながることも多いです。

配置の検討

ある程度の海外赴任後に日本に帰国する社員の配置は、その社員が海外で学んだ経験やスキルを最大限活かすことができるように検討することが重要です。具体的には、海外での業務内容や得た知識・スキル、帰国後の役割や業務内容を総合的に考慮し、適切な部署や役職に配置することが求められます。

継続的なスキル活用とキャリア開発

帰国後の配置だけでなく、継続的なスキル活用とキャリア開発にも配慮が必要です。例えば、海外で学んだスキルや知識を定期的に活用できるプロジェクトに参加させることや、海外拠点との連携を担当させることなどが考えられます。また、キャリア開発においても、海外経験を活かしたポジションや役割への昇進や異動を促すことが重要です。企業の海外派遣研修後に、日本に帰国した社員の配置は、海外で学んだ経験やスキルを活かすことができるように適切に検討することが求められます。また、継続的なスキル活用とキャリア開発にも配慮することで、海外派遣研修の効果を最大限に活かし、企業のグローバル人材育成に寄与することができるでしょう。

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執筆者

森田 英一
beyond global group
President & CEO
森田 英一

大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。