かつて「アジアの優等生」と称され、安定的な経済成長を続けてきたタイ。しかし近年では、ASEAN主要国の中でも成長鈍化が目立ち、従来型の経営や組織運営では通用しない局面を迎えつつあります。
「これまで通りでは立ち行かない」多くの経営者がそう実感している今、日系企業のタイ拠点は、これからどこへ向かうべきなのでしょうか。
成長率の鈍化──ASEANの中で相対的に遅れるタイ
ASEAN5(タイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン・ベトナム)の中で、タイのGDP成長率は明らかに低下傾向にあり、他国と比較しても伸び悩みが目立っています。
この動きは統計データでも裏付けられており、「何となく景気が停滞している」という経営者の肌感覚とも一致しています。経済全体に漂う鈍化の空気は、日々の経営判断にもじわじわと影響を及ぼし始めています。
自動車産業の変革──EVシフトと中国メーカーの台頭
タイ経済を長年牽引してきた自動車産業にも、大きな地殻変動が起こっています。
これまで市場を席巻してきた日本車のシェアは、EV市場の拡大とともに大きく変化。2022年時点で85%を占めていた日本メーカーのシェアは、わずか2~3年で急速に縮小し、今や中国系EVメーカーが台頭する構図に転じています。
「タイ=日本車」の時代が終わりを迎えつつある今、この変化は単なる産業構造の変化ではなく、日系企業全体にとって「競争力の再定義」や「事業モデルの再設計」を迫る問いとなっています。
世界が揺れる中で、問われる“変化対応力”
地政学リスクの高まり、為替変動、インフレ、国際競争激化──グローバル経済を取り巻く不確実性は増すばかりです。
米中対立やウクライナ情勢、アメリカの通商政策変更などは、貿易依存度の高いタイ経済にとって直接的な影響をもたらし、輸出入・サプライチェーンにも大きな影響を及ぼします。
国内に目を向けても、少子高齢化、労働力不足、急速なデジタル化といった構造的課題が進行しており、今や「成長を前提とした経営」から「変化を前提とした経営」へと発想を転換することが、企業経営における基本条件になりつつあります。
タイ拠点を“守る”か、“変える”か
こうした複雑な変化の中で、企業の経営判断は従来の“前年踏襲型”ではもはや通用しなくなっています。
「任期があと1~2年だから大きな改革は避けたい」といった短期的な視点では、企業の競争力は確実に低下していきます。目の前の安定よりも、5年・10年先の競争環境を見据え、いま動くことが重要です。
「自分の任期ではなく、組織の将来に責任を持つ姿勢」が問われています
「変化を読み、先手を打つことこそが経営者の責任」
まとめ:今こそ、「変革を起こす責任」を果たすとき
- タイの経済成長は鈍化し、従来の優位性が揺らいでいる
- 自動車産業の構図変化は、日本企業にも事業モデルの転換を迫っている
- 外部環境と国内構造の変化が、従来型経営を突き崩し始めている
- 経営者には“短期対応”を超えた“未来を描く構想力”が求められている
「このままで良いのか?」ではなく、「どう変えるか?」を問い直すこと。
それが、今、タイ拠点の経営に求められている核心的な視点です。
【次ページ】第2回:変革の時代に経営者が向き合うべき5つの課題とは
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執筆者
beyond global group
President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。