タイでマネジメントに関わる日本人の多くが感じるのは、「評価が甘くなりがちで、納得感が薄い」という現場の課題です。部下に対して「みんな頑張っているからOK」「揉めないように高めの評価をつける」といった傾向はないでしょうか。結果として、ほとんどの社員に良い評価が並び、かえって「評価の重み」が失われてしまう状況も見られます。
一方で、タイ人の部下たち自身も、本当は何を改善すればよいのかがわからずにモヤモヤを抱えています。「上司が何を見ているのかが分からない」「誰でも同じように評価される」と感じれば、自分を伸ばすための方向性も見出しにくくなってしまいます。
人事制度は導入すること自体がゴールではありません。制度が「実際に使われる」ことで、初めて組織に変化と成長をもたらします。どれほど立派な制度を作っても、運用の中で曖昧さや甘さが残れば、制度は形だけのものになってしまいます。特に評価制度では、評価者であるマネジャーの運用力と納得感が、制度の価値を決める最大の要素になります。
本記事では、タイの職場でも起こりがちな「甘く、曖昧になりがちな評価」の背景を見つめ直し、どうすれば評価が“伝わり”、成長を後押しできるかを実践的に整理します。
評価をあいまいにする3つの“ことば”
多くの評価が「なんとなくの印象」で決まってしまう原因のひとつが、日常的に使われる評価の“あいまいワード”です。たとえば:
- 「がんばっている」:努力している様子は伝わるが、具体的な行動や成果の裏付けがない
- 「私はできる」:本人の自己申告であり、事実や基準に沿った確認がされてい
- 「彼はできる」:第三者の印象に頼っており、行動の具体性や根拠が不明確
こうした言葉で評価を進めると、どうしても評価の透明性や納得感が損なわれます。結果的に「みんな良い評価をもらうけれど、何を伸ばせばいいかが分からない」というモヤモヤを生んでしまいます。
曖昧さをなくすには、「事実」と「言葉」の精度を上げる
納得感のある評価を行うには、観察と記録の習慣が欠かせません。
- 部下の行動を日常的に観察し、変化や工夫をメモとして残す
- 数字や成果だけでなく、その過程や姿勢、挑戦の質まで記録する
- フィードバックでは、その記録を根拠に「何をどう行動したのか」を具体的に伝える
このように事実に基づいたコメントがあるだけで、フィードバックの説得力は大きく変わります。部下にとっても「何を伸ばせばいいのか」がクリアになり、自信につながります。
曖昧な評価は、社員の成長機会を奪う
曖昧なままの評価は、社員の未来を閉ざしてしまいます。
- どこを改善すればいいのかがわからない
- 評価結果に再現性がなく、努力の方向性が見えない
- 「上司次第で決まる」と感じて不信感が生まれる
評価制度は、単なる処遇決定のための仕組みではなく、成長の方向を示すナビゲーションとして機能すべきです。その役割を果たすには、基準と言葉をはっきりさせることが欠かせません。
評価制度は「言語の制度」である
制度は仕組みであると同時に、「共通言語」を生み出すフレームでもあります。
- 等級や役割の定義に沿って、どんな行動が期待されているかを示す
- フィードバックでは、評価者がその言語を使って対話する
- 社員自身がその言語を通じて、自らの成長や課題を内省する
このような「評価の言語化」が進むほど、制度は組織内に根づきやすくなります。
まとめ:がんばりではなく、行動を見て、言葉にする
- 「がんばった評価」は評価の本質ではない
- 客観的な行動観察と記録が、納得を生む第一歩
- 制度は“言語の土台”を提供し、それをどう使うかが評価者の責任
人事制度が機能するためには、まず「何を見て」「どう言葉にするか」を明確にする必要があります。がんばりを超えて、行動と成長を見つめ直す制度運用が、組織の変化を促す第一歩となるのです。
【次ページ】第2回:「評価者の力が制度の信頼を決める」
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執筆者
beyond global group
President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。