タイで人事制度を導入するとき、日本人マネジャーがよく直面するのが「評価者の運用力」の課題です。どんなに精緻な仕組みをつくっても、現場で評価を担うマネジャーの理解やスキルが伴わなければ、制度は機能しません。特にタイでは「波風を立てないように評価を高めに寄せる」など、マネジャー自身が評価に踏み込めないケースも少なくありません。
今回は、評価者に求められるスキルと姿勢を分解し、それを“見える化”することで制度への信頼性を高める視点を整理します。
評価者のスキルが制度の運命を左右する
制度に対する社員の信頼は、最終的に「評価者がどれだけ客観的に、丁寧に評価しているか」にかかっています。たとえばタイの現場でありがちなケースとして:
- 面談で「よくやってるよ」とだけ伝え、何がどう良かったのか説明がない
- コメントが毎回同じで差がつかず、具体性がない
- フィードバックが実質的に処遇の伝達だけで終わってしまう
こうした状態が続けば、制度そのものへの信頼が揺らぎ、社員のモチベーションにも悪影響を及ぼします。
評価スキルの4要素──制度を動かす力とは
評価者に求められるスキルは、大きく4つに整理できます。
- 観察力:部下の行動を日常的に把握し、変化や工夫に気づく
- 記録力:その行動や成果を客観的にメモとして残す
- 言語化力:行動と成果を、制度の基準に沿って説明できる
- 伝達力:評価内容を、相手が納得できる形で伝えられる
この4つが揃って初めて、制度が「公平に運用されている」と社員に受け止められます。
特にタイの現場では、この4つの不足が評価の甘さや不透明さに直結するため、意識的に磨く必要があります。
スキル不足は“曖昧な言葉”として現れる
スキルが不十分だと、フィードバックが曖昧な表現になりがちです。
- 「よく頑張ったね」で終わる
- 「助かってるよ」とだけ伝える
- 「もっと積極的に」と抽象的なアドバイスで済ませる
このようなフィードバックでは、部下は何をどう改善すればいいのか分からず、成長機会を失います。タイ人社員は特に「上司が何を求めているか」を敏感に気にする傾向がありますから、なおさら具体性が必要です。
評価者研修で“姿勢”を育てる
評価者に必要なのは、スキルだけでなく「制度を育てる当事者である」という意識です。その姿勢は、継続的な研修や支援を通じて育まれます。
- 評価の目的を理解する機会を設ける
- ロールプレイで言語化と伝達のトレーニングを行う
- 評価者同士で事例を共有し、判断基準のすり合わせを行う
制度の質は、評価者の“姿勢”と“技術”の両輪で支えられています。
まとめ:制度は評価者のスキルで動き出す
- 制度の印象は評価者の言葉ひとつで変わる
- 観察・記録・言語化・伝達の4スキルが鍵となる
- スキルと姿勢を“見える化”し、育て続けることが制度運用の本質
評価者は単なる運用者ではなく、制度を組織に根づかせるキーパーソンです。制度を信じてもらうには、まず評価者が制度を正しく使いこなせているか。その一点にかかっているのです。
【次ページ】第3回:等級と役割を“評価と育成”にどう活かすか
beyond global group では、日本企業のグローバル化促進・企業体質の変革支援のために無料個別相談会を実施しております。
弊社のコンサルタントが、企業様のお悩みをお聞きした上で、課題の整理 / 他社事例のご紹介 / 予算の算出 / 解決策のご提案をいたします。
執筆者
beyond global group
President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。