
シンガポール拠点の現実に効くHRテック戦略 評価は感覚、ノウハウはベテラン現地社員に依存 ——硬直したシンガポール拠点をHRテックで動かす
- 2025.05.20
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人件費の高騰が止まらないシンガポール拠点において、日系企業の海外拠点は大きな転換点を迎えています。これまで駐在員が主導してきた現地運営も、今や「現地化」への移行が急務となっています。しかし、任せたいけれど任せきれない、育てたいけれど育て方がわからない――そんな悩みを抱えるマネジメント層は少なくありません。
属人的な判断、曖昧な評価基準、表面的な会話。こうした課題を打開する鍵として注目されているのが「HRテック」です。データで人材の状態を“見える化”し、マネジメントの精度を高める。それは単なるツール導入ではなく、組織変革の第一歩でもあります。
この記事では、シンガポール拠点での実践に焦点を当て、HRテックをどう活用すべきかを紐解きます。
目次
多くの日系企業の現地法人では、「人を育てたいが、どう育てればいいのかわからない」というマネジメントの声が聞こえてきます。特にシンガポール拠点においては、制度だけが先行し、実態としては運用が形骸化してしまっているケースも少なくありません。
人事評価制度や賃金制度を導入しているものの、「実は七、八割が運用に課題を抱えている」といった実情が見えてきます。運用が曖昧で、評価も属人的。管理職が「好き嫌い」で評価してしまっていたり、そもそも何をもって成果とするかが明確でなかったりする。その結果、評価に納得感がなく、ローカル人材のやる気も育たず、優秀な人材ほど離れていくという悪循環に陥ります。
さらに、日本での人事経験が少ないマネジメント層が現地で運用を担っているケースも多く、「誰を上に上げればよいのか」という基準があいまいなまま現場が回ってしまっているのです。言語の壁や文化の違いも相まって、本来であればリーダーに育てたい人材が、うまく見極められず埋もれてしまっている現実があります。
このような状況に対して、今、世界のグローバル企業が注目しているのが「HRテック」です。特に注目されているのは、組織と人材の状態を“見える化”し、定量的なデータをもとにマネジメントの意思決定を行う「科学的人事」の実現です。
たとえばGoogleでは、人事に関する意思決定のすべてをデータと分析に基づいて行っており、「勘や経験」ではなく、客観的なデータが判断基準となっています。Salesforceでも、V2MOMという目標管理制度を活用し、全社員の目標と進捗をリアルタイムで“全社共有”していることで、世界中の社員が同じ方向を向いて動ける環境が実現されています。
HRテックを活用すれば、目標や成果の進捗、エンゲージメントの変化、離職リスクなど、これまでは見えなかった“組織の体温”を定量的に捉えることが可能になります。評価の透明性が高まり、ローカル人材の納得感も育ちやすくなるのです。
HRテックの導入は単なるツールの導入ではありません。それは、マネジメントの在り方を根本から問い直す“変革の入り口”でもあります。とりわけ重要なのは、マネージャー層の意識転換です。肩書きだけの管理職ではなく、データをもとに客観的な評価を行い、成果でマネジメントする姿勢に変えていく必要があります。
同時に、現地社員側にも「グロースマインドセット」が求められます。「自分はもう変われない」「どうせ無理だ」といった固定マインドではなく、「まだまだ成長できる」「やればできる」という成長志向に切り替えられるかが、現地化の鍵を握ります。
この“両者の意識改革”なくして、HRテックの活用は絵に描いた餅で終わってしまいます。だからこそ、シンガポールのような現地拠点でこそ、制度とマインドの両面を整備しながら、HRテックを戦略的に活用することが今、求められているのです。
これまでの日系企業の海外拠点運営は、多くの場合、日本から派遣された駐在員による“トップダウン型”のオペレーションが主流でした。現地の状況を日本で培った経験や価値観で解釈し、日本的な経営を現地に落とし込むというスタイルです。
しかし、時代は大きく変わりつつあります。出張による支援が難しくなり、現地での対応力が求められる中で、「本社から来た人が最終判断をする」という構図そのものが限界を迎えています。現地の複雑な商習慣や労務環境、文化的背景を踏まえた交渉や意思決定は、物理的にも心理的にも“その場にいる”人間に委ねる必要があるからです。
さらに、駐在員の派遣そのものが減少傾向にあります。たとえば商社などでは、トレーニー的な短期派遣すらストップせざるを得ないという流れも出てきており、今や「現地で戦える人材」をどう育て、どう任せていくかが喫緊の経営課題となっています。
ローカル人材をマネジメントする際、日本人マネージャーが直面する最大の壁は、感覚のズレにあります。日本的な“和”の文化、阿吽の呼吸、空気を読む配慮。それらは、シンガポールや東南アジアの実務現場では必ずしも通用しません。
たとえば、日本人の目には「優秀」と映る社員が、現地のスタッフからは「空気を読まず自己主張が強すぎる」と受け取られることもあります。その逆もまた然りです。結果として、人事評価や昇進判断に対して納得感を持たれず、優秀な人材の離職につながるケースも少なくありません。
さらに、駐在員交代のサイクルが早く、3〜5年で新しいマネージャーが着任するなかで、関係構築がやっと進んできた段階でまた振り出しに戻る、という状況も多く見受けられます。
このような文化的・構造的ギャップを乗り越えるには、「日本人としてどう見えるか」ではなく、「現地の価値観においてどう機能するか」という視点での人材評価・登用が必要です。
日系企業の多くは、人材マネジメントにおいて“業務運営の延長線上”という発想から抜け出せていないことが少なくありません。人事担当者や現地責任者も、経営視点というよりはオペレーション視点で組織を見ている場合が多く、「いま必要な人材をいかに確保するか」に留まりがちです。
一方で、グローバルに展開する欧米企業では、HRテックの活用を通じて「データに基づいた戦略的人事」の実践が加速しています。現地スタッフのパフォーマンスや適性を可視化し、中長期的な視点で配置・育成・登用のプランを構築するスタイルが、すでに当たり前のように浸透しているのです。
日系企業がこうした流れに乗り遅れると、優秀な現地人材は欧米企業やローカル企業へと流れていきます。今求められているのは、「この人をこのポジションで活かすには、どのスキルと支援が必要か」「この原石を磨くにはどんな経験を積ませるか」といった、未来を見据えたマネジメントです。
経営として「誰を次のリーダーに据えるか」を意識的に考え、人事戦略の中心に位置づける――この視点の欠如こそが、日系企業が抱える構造的な課題と言えるでしょう。

これまで、日系企業の海外現地法人では「現地マネージャーの勘と経験」に依存した人材マネジメントが主流でした。どの社員を昇進させるか、どのチームに誰を配置するかといった判断は、しばしば限られた情報と個人の直感に基づいて決定されてきたのが現実です。しかし、これでは意思決定の再現性もなく、属人的な運用に終始してしまいがちです。
HRテックの登場により、人材情報のデジタル化と蓄積が進み、感覚ではなく、定量データに基づいた判断が可能になりました。例えば、社員の過去の評価推移、スキルの変化、離職リスクやエンゲージメントの兆候まで、あらゆる情報を可視化し、データとして活用できます。これにより、組織にとって本当に必要な人材を見極める「科学的人事」への転換が進んでいます。
特に、駐在員の交代が頻繁なシンガポール拠点においては、データに基づいた人事判断が継続性と公正性を担保する重要な手段になります。
HRテックの最大の特徴のひとつが「見える化」です。これまで紙やExcelに点在していた人材情報を一元管理することで、組織全体の状態を一目で把握できるようになります。たとえば、従業員の顔写真とプロファイルを一覧表示し、クリックするだけで評価履歴やスキル、志向性までも確認可能なダッシュボードが導入されている事例もあります。
また、特定部署の離職率の変化、エンゲージメントスコアの推移、スキルギャップの傾向なども、時系列で可視化されることで、現場の課題を直感的に把握することが可能になります。こうした情報をマネージャーがリアルタイムで把握できるようになることで、「気づいた時には手遅れだった」という事態を防ぎ、早期の打ち手につなげることができるのです。
さらに、所属部門や評価スコアなどの軸で従業員をマッピングすることで、次世代リーダー候補やジョブマッチの視点からの配置転換シミュレーションまで可能になります。これは、単なる定点観測ではなく、戦略的アクションを促す「経営のための人事情報」へと進化していることを意味します。
アメリカ企業では20年前から始まったHRテックの進化は、いまや「戦略人事」の中核を担う存在へと位置づけられています。初期はペーパーレス化や業務効率化を目的としていましたが、次第にタレントマネジメント、エンゲージメント向上、離職予測といったより高度な活用へと発展してきました。
現在では、生産性向上や組織パフォーマンスの最大化を視野に入れた活用が進んでおり、HRテックは単なる人事ツールではなく、経営戦略と直結するインフラになりつつあります。一方で、日系企業はこの流れに対して約10年の遅れがあるとされており、今まさに変革のタイミングに立っています。
戦略人事を実現するためには、次のようなステージを意識したHRテック活用が求められます。まずは、紙やExcelに散在する情報をデジタルで一元化すること。次に、その情報をもとに現場の状態を把握し、分析し、将来の変化を予測する。そして最終的には、人事システムをAIなどでフル活用することによって、個々の社員に対して最適な配置や育成を自動提案するような仕組みへと進化させていく——この段階的ステップが現実的かつ効果的なアプローチです。
重要なのは、いきなり高度なAI活用を目指すのではなく、自社の成熟度に応じて適切なステージから始めること。たとえ小規模な現地法人であっても、目的を定め、段階を踏むことで、戦略人事への道は確実に拓けます。

シンガポール拠点の人材マネジメントで、最初の大きな壁になるのが「人材情報の分断」です。紙やExcel、あるいは記憶や属人化した管理に依存している現場では、社員の能力や経験、配置の履歴が点在し、全体像が見えません。そこで、HRテックの第一歩として有効なのが、タレントマネジメントシステムを活用した情報の一元化です。
このシステムを導入することで、散在していた情報を一つのプラットフォームに統合できます。結果として、社員のスキル、経歴、過去の評価結果といった情報がいつでも取り出せるようになり、経営・人事・現場が共通の目線で人材を把握できるようになります。人材配置の意思決定のスピードと精度が上がり、グローバルでの適材適所の実現にもつながります。
特に拠点をまたぐマネジメントにおいては、こうした可視化が欠かせません。例えば、グループ会社間の異動候補の検討や、海外拠点への抜擢人材の選出など、これまで感覚に頼っていた判断が、データをもとにした合理的な選択に変わるのです。
人材情報の一元化に続いて取り組みたいのが、社員の「声」を継続的に可視化する仕組みの導入です。とくにシンガポールのような多国籍・多文化の現場では、マネージャーが部下の本音を読み取るのが難しい場面も多々あります。その中で、パルスサーベイのようなHRテックツールは、マネジメントの質を飛躍的に高める手段となります。
例えば、ある企業ではパルスサーベイを活用し、リアルとリモートのハイブリッドな働き方の中で従業員の不安や体調の変化をタイムリーに把握することができました。従業員満足度やエンゲージメントを可視化することによって、対応の優先順位が明確になり、マネージャーも根拠を持ったコミュニケーションが可能になります。
また、このような調査は「対話のきっかけ」としても機能します。調査結果を共有することで、上司と部下の間に自然な会話が生まれ、信頼関係の醸成にもつながります。週単位や月単位での定点観測により、小さな兆しを早期に察知できることも大きなメリットです。
HRテックの導入効果を最大限に引き出すには、「評価」と「育成」をつなぐ仕組み作りが不可欠です。従来の評価制度は、「査定」の色合いが強く、どうしても社員にとっては“年に一度のイベント”で終わりがちでした。しかし今、求められているのは“継続的な成長支援”としてのパフォーマンスマネジメントです。
HRテックを活用すれば、評価データのリアルタイム化や経年変化の可視化が可能になります。評価のやりとりをクラウド上で行えば、拠点を越えたコミュニケーションもスムーズになり、組織全体で人材育成の方針を共有しやすくなります。
さらに、評価データは単なる結果ではなく、キャリア開発の出発点として活用することができます。個々の社員の強み・課題・志向を把握することで、育成プランや配置転換の精度が上がり、優秀な人材の離職防止にも直結します。社員自身も、自分のキャリアの方向性を言語化しやすくなり、主体的な成長行動が促されます。
こうしたサイクルを実現するには、テクノロジーだけでなく、マネージャーの関与と現場での運用がカギを握ります。HRテックを「使いこなす」ための組織文化の醸成もまた、重要な実践ポイントとなるのです。

HRテックと聞くと、いきなりAI活用やデータサイエンスといった高度な取り組みを想像するかもしれません。しかし実際には、HRテック活用には明確なステップが存在します。そしてその第一歩は、極めて地道な「情報の集約」にあります。
特に小規模な現地法人では、今もなお人事データが紙ベースやExcelで管理されているケースが多く見受けられます。このような状態を「レベル1」と位置づけ、そこから段階的に人事システムの導入(レベル2)、フル活用(レベル3)へと進化していくことが現実的なアプローチです。
レベル1の段階では、まず人事関連情報をできる限り集約し、クラウド上で一元管理することから始めます。これにより、社員の履歴情報や評価、スキルといった情報を検索可能にし、必要な意思決定の材料として活用できるようになります。ミスマッチの可視化やハイパフォーマーの把握、スキルマップの作成もここから可能になります。
情報の一元化が進んだ後に求められるのが、「クラウドでの運用」と「リアルタイムのデータ活用」です。特に人事評価に関する情報は、ローカル社員の成長支援や適切な抜擢判断に不可欠です。クラウド上でリアルタイムに評価情報を閲覧できれば、評価の経年変化や傾向分析がしやすくなり、組織全体の透明性や納得感も高まります。
加えて、アセスメントツールなどの単独で使えるHRテックも、比較的導入ハードルが低く、実務上の効果が見えやすい選択肢です。採用時のスクリーニングやジョブマッチング、マネージャー候補の見極めなどに活用することで、経営にとって重要な意思決定をデータに基づいて行えるようになります。
このように、クラウド化→蓄積→活用という段階を踏むことで、自社にとって最も自然な形でHRテックを取り入れられるのです。
HRテックの導入を成功に導くために、もっとも重要な視点の一つが「なぜ導入するのか」という目的の明確化です。ただツールを入れるだけでは、現場に混乱を招き、運用が形骸化してしまうリスクがあります。
「他社が導入しているから」「流行っているから」という理由でHRテックをトップダウンで導入した結果、現場の運用が回らずに頓挫してしまったケースを多く見かけます。システム導入においては、「その会社にとって何が課題で、HRテックをどう活用して解決するか」という仮説と合意形成が不可欠です。

また、導入後の効果測定も重要です。定量的な指標でいえば、離職率の変化やハイパフォーマーの昇進率、評価のばらつきの減少などが該当します。さらに、定性的な成果としては、現地社員の納得感や主体性の向上、組織文化への影響なども丁寧に捉えていく必要があります。
目的と効果、この両輪が揃って初めて、HRテックは戦略人事の実現を支える強力なツールとなるのです。
人が育たない。任せられない。辞めていく――。多くの日系企業が、海外拠点における人材マネジメントで抱える課題は、個別に見えて実は“構造的”なものです。日本本社を中心としたトップダウン型の仕組み、属人的な判断に依存する評価制度、そして、「人」を“戦略”としてとらえる発想の欠如。こうした背景が、現地の優秀な人材のポテンシャルを埋もれさせ、組織の停滞を生んできました。
そうした現状に風穴を開ける鍵が、HRテックの活用です。決して大掛かりな改革である必要はありません。まずは自社の人材情報を整理し、見える化するところから。小さな一歩を積み重ねることで、現地拠点の“人を見る目”が変わり、現場の納得感が生まれ、組織が少しずつ変わっていきます。
特にシンガポールのように、優秀なローカル人材が豊富で、かつ雇用の流動性が高い地域では、データを活用した公平で戦略的な人材マネジメントが、競争力を左右します。そして、それを可能にするのがHRテックです。
この記事で紹介したように、HRテックはあくまで手段にすぎません。大切なのは、それをどう使いこなし、自社のマネジメントにどう活かすか。目的を定め、段階的に取り入れ、現場の声に耳を傾けながら制度と運用を進化させていく。そんな地道な取り組みこそが、グローバル人材マネジメントの未来を切り拓いていくはずです。
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