「任せたいが任せられない」「昇格させたが、機能していない」ローカルマネジャーの育成において、こうした悩みを抱える企業は少なくありません。
特にタイでは、昇格=役職や処遇の明確な変化という意識が強いため、制度の不整備は現地社員にとって「何のために頑張るのか分からない」という状態を生み出します。
ローカルマネジャーに本当に“任せる”ためには、権限委譲の意思だけではなく、「任せられる状態をつくる制度と運用の仕組み化」が不可欠です。
任せるために、役割と評価基準を明確にする
“マネジャー”という役職があるだけで、何を担うのかが不明確な状態では、評価も育成も曖昧になってしまいます。
- その職位にどんな成果責任があるのか
- チームとしてどんな価値創出が期待されているのか
- どのような行動・能力が昇格の判断材料となるのか
これらを言語化し、等級制度や評価制度と連動させることが「任せる制度設計」の出発点です。
評価は「育てるための道具」にする
評価制度は、単に結果を数値化してランク付けする仕組みではなく、社員を育てるための道具であるべきです。
- 評価項目は、役割定義と一貫性があるか
- 行動面・成果面の両方がバランスよく見られているか
- フィードバックが、次の行動や目標設定につながっているか
特にマネジャー層には、「成果を出す」だけでなく、「人を育てる・巻き込む」行動が評価される仕組みでなければなりません。
昇格と報酬が“動機づけ”として機能するようにする
「評価はされたけれど、昇格も報酬も変わらない」この状態では、制度は形骸化していきます。タイでは、処遇への反映が曖昧だと、制度そのものへの信頼を失う傾向があります。
- 昇格要件は明確か(成果だけでなく、能力・姿勢も含まれているか)
- 昇格時に、報酬や役割が具体的に変わる仕組みがあるか
- 昇格しなくても、短期的に実感できるキャリアステップが提示されているか
未来が見えることで、人は成長の意欲を持てるようになります。
運用者が“制度の翻訳者”になる
制度設計をいくら精緻に行っても、現場で正しく理解され、活用されなければ意味を持ちません。実際にタイでは、制度自体は整っていても「誰も中身を理解していない」「マネジャー任せで運用がバラバラ」という例が少なくありません。
- 管理職自身が「評価とは何か」を理解しているか
- 面談や目標設定が、単なる形式にとどまっていないか
- 日本本社とすり合わせた上で、現地にフィットする説明ができているか
現地の制度運用においては、翻訳と補助を担う「運用の橋渡し役」が必要です。
まとめ:“任せる制度”は、任せる責任を支える仕組み
- マネジャーの役割を明確に定義し、評価制度と接続する
- 評価は“育てる”ためのプロセスとし、行動と成果を両軸で捉える
- 昇格・報酬は明確な設計と運用によってこそ、動機づけとして機能する
- 制度の使い手(運用者)の理解と関与が、制度を“使われる仕組み”に変えていく
【次ページ】第5回:成功する現地化マネジメントの実践例
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執筆者
beyond global group
President & CEO
森田 英一
大阪大学大学院 基礎工学研究科卒業。大学時代に、国際交流サークルを立ち上げる。大学院時代にアメリカとイギリスで海外でのインターンシップを経験。大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。 2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。若手の主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。10年の社長を経て、現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、グローバル人材育成事業、日本企業のグローバル化支援、組織開発、ナショナルスタッフの人財開発、東南アジアの社会起業家とソーシャルイノベーション事業等、各種プロジェクトを行っている。株式会社シェイク 創業社長・現フェロー。 著作に「どうせ変わらないと多くの社員が諦めている会社を変える組織開発」(PHPビジネス新書)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「自律力を磨け」(マガジンハウス)「こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?」(PHP出版)「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)等がある。